【跡部】All′s fair in Love&War
第20章 おわりのはじまり(前編)
「りゅうが、く…?」
「そーなの、茉奈莉ちゃん!」
元旦早々、千花ちゃんとファミレスで集合して早1時間ほど。いつもと違い話が盛り上がらず、おかしいな、と思っていると急に彼女から切り出された話。思いもよらないその単語を、異国の言葉のようにたどたどしく繰り返す。
「氷帝の姉妹校で募集してた特待留学生の試験、ダメ元で受けたら通っちゃってね!」
生活費も出してもらえるんだよ、寮があってね、なんて随分饒舌な千花ちゃん。笑顔だけれど何処か暗い、彼女がこんな風に話す時は、大概――
「千花ちゃん、何か不安なの?」
「えっ…と、あの、そう、だね」
尋ねてみると、急に口篭る。図星だったのか、はたまた的外れだったのか。恐らく不安、という言葉では括れない感情なのだろう、と想像がつく。
「そうでしょうね、言葉の壁もあるでしょうし」
「うん、」
「御両親とも離れ離れだし」
「…うん、」
「アメリカには私達も、いないものね」
俯いた千花ちゃんからは、返事が返ってこなくなった。その様子につい、昔の事を思い出す。あの時もそうだった、千花ちゃんは不安な顔をしながら、不満を口に出さないタイプなんだもの――
きゅ、と赤いネクタイを締め、ブレザーを羽織る。まだ新品で固いままの生地が馴染まなくて、違和感を感じながら階下のリビングに降りると、祖父母も両親も立ち上がって喜んでくれた。
「流石、良く似合うわ茉奈莉ちゃん」
「昔の母さんみたいだなぁ」
氷帝学園には両親も共に通っていたという、昔話を片手間に聞きながら準備をし。有難う、と笑って、足早に家を出た。待ち合わせの時間までは余裕があるけれど、彼女より後につくわけには行かない。
私を見つけ、眉尻を下げ、ごめんね、と駆け寄ってくる彼女の姿が好きだった。こんな風に、同性の友人に酷く執着している自分。両親のように大恋愛をして、中学生から付き合って結婚、だなんて。酷く縁遠い話のように思える。
勿論、女の子同士でどうにかなろう、なんて。そんなお花畑な考えは持ち合わせていない。それでも、千花ちゃん以上に、興味の持てる人が存在するのかどうかすら怪しい――とは思っている。