【跡部】All′s fair in Love&War
第19章 はじまりのおわり (後編)
「千花ーー!!茉奈莉ちゃんと約束の時間でしょ!!!」
自分を呼ぶ声に、はっ、と我に返る。昔の写真なんてみると、これだからいけない。3年間の思い出を綴ったアルバムを元あった棚に戻そうとし――やはり、と用意した箱の底に入れた。
コンコン、とノックの音が響き、振り向くとお母さんが苦笑しながら立っている。
「新年早々、待たせちゃダメでしょう?」
「その通りでーす、急ぐね!」
今日は一月一日、元旦。テニス部の皆で毎年恒例の初詣に行く――その前に、茉奈莉ちゃんとファミレスで待ち合わせをしていた。ドリンクバーで何時間も語れる私達には、行きつけのお店がある。約束の時刻まで20分と、丁度いい時間に声がかかったことに感謝しながら、お気に入りのコートに袖を通す。
玄関までいくと、お父さんとお母さんが並んで立っていた。
「気を付けて行くのよ、余り遅くならないでね」
「正月だから車通りは少ないけれど、荒い運転の奴が多いだろうから充分注意するんだぞ」
「はーい、わかってまーす。帰る時間はまた連絡するね」
あの日、から。時間が会う時には必ず、こうして揃って見送ってくれるようになった。私も素直に、耳にタコができそうな二人の話を聞くようになった。私は一人っ子だから、小さい時からずっと大切に育てて貰ったことを身に染みて分かっている、つもりだった。
「「行ってらっしゃい」」
二人の重なる声に、笑顔に背を押され、行ってきます、と小さく手を振る。扉を閉める。その日、まで続くだろう、この大げさな見送りに、心がじんわりと温かくなる。身を刺すような寒さに少し身体が竦む、けれど。意識して真っ直ぐ、大きく足を踏み出した。
まるで決意じみた、一歩を。