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【跡部】All′s fair in Love&War

第16章 夏の魔物に連れ去られ(後編)





「はぁ?いやいや、一曲って踊るってこと?無理だよむりむり!やった事ないもん!!」
「チッ…いいから、こういう時は黙って手を乗せりゃいいんだよ」


無理やりぐっと手を掴まれ、驚く暇も無い内にもう片方の手も掴まれ。左手はここだ――と、跡部の肩下あたりに置かれた。そして跡部の右手がその下を通り、あたしの背に回される――ぐっと近くなる距離に、心臓が爆発しそうになる。いや、もう爆発しているかもしれない。


「そう、俺様の左手の先…繋いでる部分を見てな。そこについて行くように足を動かせば間違いないぜ」

「三拍子の一拍目を意識しろ、そこに重心をおけばワルツになる…そう、上手いぞ」



いつの間にかミカエルさんも正装をして、指揮棒を持ち。お手伝いさんやコックさん達が楽器を手に、ホールの端に並んでいる。跡部が私の手を引き踊り出すと、合わせて静かに何処かで聞いたことのあるような曲が流れる。

何も言えないまま、跡部の動きについて行くのが精一杯だ。ぐっ、と腕が強く引かれると、対応しきれず跡部の胸に顔面から突っ込んだ。わぷ、と間の抜けた声を上げてしまう。


「リキみすぎなんだよ…もっと力抜け。お前が力を全く抜いたとしても、俺様が支えてやってるんだから問題ねぇんだよ」
「そ、そんな事言われてもっ…急に力抜けっていわれても、どうしたらいいのかっ」


困って跡部の顔を見上げると、ふ、と笑顔が降ってくる。


「いつもいつも気張らなくていいんだよ、特にこういう時はな」


その笑顔に、ふっと力が抜けたように気が楽になる。さっきまでより、動きもスムーズになった。言われた通り、跡部の左手を見る。どちらに動けばいいか、感覚で分かる気がしてくる。


「そう、いい子だ」


褒められた事が素直に嬉しくて、にやけてしまう頬を抑えようとしたけれど、このままでいいのかも知れない、と感情に任せる事にした。さっきまで思い悩んでいたことが嘘のようで、もしかしたら夢の中にいるのかも知れない、とすら思う。


「跡部、ありがと」


この合宿も、昨日の夜眺めた空も、今こうしている事も、全て引っ括めて、跡部が見せてくれる夢だ。何故かじわり、と涙が出そうになった。現実が大変でも、きっとこの夢を思い出して頑張れるから、今はもう少し浸っていよう――昨日より少し細くなった月が、窓の外に光っていた。


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