第12章 初恋
第三者目線
「疲れから心の臓が少し弱っている様です。御典医に見せる程ではないとの、家康の診立てです」
秀吉がそう報告する横で家康が頷く。
「…そうか」
呟いたまま信長は黙り込んでしまう。
「どのくらいで良くなるのだ」
「…しばらく薬湯を飲んでれば大丈夫です」
「仕事は出来るのか?」
「無理をしなければ…そこは秋野に見てもらいます」
「今は…どうしておる」
「眠くなる薬湯を飲ませ、寝ています」
「わかった。下がれ」
矢継ぎ早に信長は質問をし、2人を下がらせた。
「「はっ」」
2人が下がると信長は物思いにふける。
『疲れてもおるか…』
側に置きたいその想いだけでなおを連れ回したことを、信長は後悔していた。
「悔やむなど…」
全ての決断において、信長は今迄後悔などした事はなかった。
それに感情の起伏も激しい方ではなく、いつでも冷静に対応出来ると思っていた。
だが、なおの事になると、全てにおいて感情が優先される。
「…腑抜けたものだ」
そう呟きながらも、顔には微笑みが浮かんでいた。
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「あの様なお屋形様は見たことがないな…」
秀吉は信長の顔を思い出す。
いつもは力のある眼は揺らいで、話を聞こうとする声にいつもの張りはなかった。
「…そうですね」
家康もボソリと呟く。
「治りもしない病なのに…本当に面倒くさい…」
家康は1つ溜息をつく。
「そう言わずに…なおとお屋形様が幸せになるのだ。俺は何でもやるさ」
「秀吉さんは…諦めたんですか?」
「…諦めたも何もない。俺はお屋形様に命を捧げているし、なおの兄だからな…」
「…少し淋しそうですよ」
家康は秀吉の顔を見るとそう呟いた。
「そう言うお前はどうなんだ?」
「…俺は……あの笑顔が見れれば良いです」
少し考えた後家康は呟いた。
「そうだよな」
秀吉は家康の頭に手を置き、わしゃわしゃと撫でる。
「嬉しい反面…辛いな」
そう呟いて部屋へと足を進めた。