第34章 不安
なお目線
「大丈夫だ…ここに居ては益々身体が冷える…帰るぞ」
そう言って微笑んだ信長様の顔に安堵する。
信長様は馬上に私を抱え上げると、自らも乗り走り出した。
止まない雨は勢いを増し、あっという間に身体を濡らしていく中、馬はゆっくりと歩き始める。
『宿までこんなに遠かったかな?』
そんな不安がよぎるほど、なかなか宿につかない。
雷鳴が轟き。辺りが一瞬照らされる。
「何故だ…」
信長様の声に顔を上げると
「なお…少し駆ける。つかまっていろ」
信長様はそう告げて、私を気遣うように歩ませていた馬を駆けはじめる。
暫く駆けていると、不意に手綱を引いて信長様は馬を止めた。
「信長様?」
見上げた信長様の顔は、少し強張っているように見えて、声をかけた。
「大丈夫だ」
少し微笑んで伝えてくれたけど…微かな不安が胸を掠める。
その時、遠くから蹄の音が聞こえてきた。
「なお…離すなよ」
信長様は刀に手をかけ、私を強く抱きしめる。
私は、信長様にしっかりとしがみつき、その胸に顔を埋めた。
「何奴だ…」
蹄の音が近くで止まる。
「信長様ですか?俺です。佐助です」
『佐助兄?』
その声に私は顔を上げる。
「何故…何故貴様がここにいる」
上から降ってきた声がいつもと違って…信長様の顔を見つめた。
『…どうしてそんな顔しているの?』
そこには今までに見たこともないような、焦りが浮かんでいた。
ーーーピカッ!!
遠くで光っていたはずの雷が
私たちを照らした。
『…あれ?この場面…』
眩い光と轟く雷
そして…
私と、信長様と、佐助兄
抑えきれない恐怖が
身を包んだ。