第11章 近づく距離
なお目線
それから私は反物を3つだけ選び
「それだけか…」
と呆れる信長様を、甘味を食べたいからと連れて行ってもらうことで何とか宥めた。
甘味屋に行っても、店ごと買い取りそうな勢いに、
「そんなに食べれません!」
「それでは俺の気が済まぬ!」
言い合いをしている私と信長様の側で、店主がおたおたとしている。
「じゃあ、みんなにお土産買って行きます」
私はそう言って、ここで食べるものと別に包んでもらうことにした。
店主のホッとした様子に、こっそりと頭を下げる。
「…おいし〜〜」
やっと落ち着いて、大好きなみたらしを口にする。
「俺の話を聞かん奴は初めてだ。貴様は本当に面白い」
くくっと笑いながら信長様はお茶を飲んでいた。
「信長様。
私は、看病もしてもらいました。それ以上の褒美はいりません。
私にお金を使うなら、その分は他に回してください。それが私への褒美になります」
私は信長様に向き合うと、そう告げた。
「ならば何に使うのか考えておけ…」
そう言うと食べ終えた私を見て、立ち上がる。
「もう一ヶ所付き合え…心配せずとも俺の買物だ」
顔に出ていたのか、信長様はそう言うと馬を引き歩き出す。
「ここだ…」
「わぁ〜〜!金平糖!」
色とりどりのお花が咲いたような、綺麗な金平糖が小さな小瓶に入って売られていた。
「金平糖は後の世にもあるのか?」
「はい!ありますよ。この時代にもあったのですね。なんか嬉しいです」
私は笑顔で答えると信長様は何故か神妙な顔になり、金平糖を見ながら思案している様子だった。
「これなら、受け取ってくれるか?」
私に目を向けると、いつもの笑いとは違う、優しい微笑みで私に問いかける。
その微笑みに、胸がドクンと跳ねる。
『あれ?私どうしたの…胸のドキドキが止まらない。何だか…息も苦しい…』
「どうした?」
信長様が下を向いてしまった私の顔を覗き込む。
「…すいません。急に胸が苦しくて…」
顔を見れずそう言うと私の身体はフワッと宙に浮く。
信長様は私を馬に乗せると、店主に声をかけ自らも馬に乗る。
「すぐに戻るぞ!」
「えっ…あの…」
私の言葉も聞こえないのか、馬は駆け出す。
街中だからかスピードはあまり出ていないけど、それでもあっという間に城へとついた。