第11章 近づく距離
なお目線
遠くで誰かの優しい声が聞こえた気がして、ゆるゆると目を開ける。
「起きたか…」
その声に、私はガバッと身体を起こす。
「すいません。私…寝て…」
私は慌てて座り直し頭を下げる。
「いや良い。まだ、戦の疲れがあるのだろう。だが…」
私はゆっくり頭を上げると、信長様がニヤリといつもの笑みを浮かべる。
「今度は俺に付き合え」
そう言うと私の腕を掴んで勢いよく立ち上がらせる。
そして、あっという間に横抱きにされる。
「あ、あの。」
私は怖さより恥ずかしくて、声をかける。
凄く近くに信長様の顔があり、慌てて顔を逸らす。
「城下に買物に行く。付き合え」
そう言うと、天主を出る。
厩までの距離が凄く遠くに感じる程、周りの目線が痛い。
「お屋形様。どちらへ?!」
途中に会った秀兄も吃驚した顔で信長様に聞いていたけど
「買物だ」
そう言って足早に去る。
「夕餉にはお戻りください!」
秀兄はあまりの早さに、それだけしか言えない様だった。
………………………………………………
「あの、信長様…」
私は信長様の馬に一緒に乗せられ、城下へと来ていた。
「何だ」
「何処へ行かれるのですか」
「貴様の着物を探す」
そう言うと一軒の店の前で馬を止め、私をゆっくり止め降ろしてくれた。
「今あるもので充分です」
そう言う私には目もくれず、信長様は反物や着物を次々と見ていく。
「店主。これを貰おう」
信長様は抱えきれないだろう数の反物を買おうとしていた。
「信長様。私はこんなにいりません」
「遠慮はするな。俺の命を救った褒美だ」
「それでも、これは多すぎです」
私はそう言うと店主に向き直る。
「この中から少し選ばせて貰ってもよろしいですか」
「全然構いませんよ。ごゆるりとお選びください。信長様はお茶でもご準備します」
そう言うと店主は店の奥に一度引き、お茶を持ってあらわれた。
「信長様。ごめんなさい。少し選ばせて頂いても良いですか?」
私は恐る恐る尋ねる。
「…欲のない奴だ」
信長様はそう呟いて、お茶を飲みながら店主と話を始めた。
『…よかった』
心の中で呟くと私は反物を手に取った。