第10章 解き放たれる心
第三者目線
「ふふふっ。お酒っておいし〜」
宴が始まり美味しい食事を食べた後
「約束だ。飲め」
信長に勧められなおは人生初めてのお酒を飲んだ。
躊躇し、秀吉や秋野、体調を心配した家康から心配されたが、信長に押し切られ飲んだお酒は、とても甘くて飲みやすかった。
その結果
「ふふふっ。ふふ〜っ」
見事な酔っ払いが出来ていた。
「秀兄〜。美味しいね〜」
「こら、もうやめておけ」
盃を取り上げようとする秀吉から逃げる様にふらふらと立ち上がろうとして、立たぬまま倒れる。
「おーっと。なお秀吉はつまらんな。まだ、飲め」
なおの倒れた先に居た光秀は、盃に酒を注ぐ。
「うーん。のむ〜」
「…もう辞めときな。また、面倒みるの嫌だからね」
家康は隣から盃を取り上げると、自ら飲み干す。
「いえやすのいけず〜」
「…いけずって…」
「家康様はなお様が心配でいらっしゃるだけですよ」
「…面倒なだけだから、黙ってて三成」
「だいじょ〜ぶだもん」
なおは満面の笑みで答える。
「…全然大丈夫そうに見えない」
家康はぼそっと呟くと諦めた様に目をそらす。
「ほら、水を飲め」
いつの間にかそばに来た秀吉は、なおに水を渡す。
「おみずもおいし〜ね」
飲み干すとニコニコ笑う。
「これが、なお様の本当のお姿なんでしょうか」
信長の側で酌をしていた秋野は笑みをこぼす。
信長は武将たちと、ニコニコ笑いながら楽しげに過ごす姿を見る。
『これが本当の姿と言うのなら…普段の彼奴はどれだけ自分を抑えておるのだ…』
愛らしい姿を見るにつけ、その反対にある今迄の姿が痛ましくも思える。
『それだけの苦痛を味わったと言うことか…』
信長は盃に目を落とす。
『ここにいる皆が、それなりの苦痛を味わってそこを乗り越えここにいる。彼奴にもそれを乗り越え、飲まずともあの様に笑える日は来るのであろうか…』
盃に映る満月。その光と共に酒を煽る。
その瞬間
「♪ララララ〜ランララ〜…」
人の声とは思えぬ歌声が、騒めいた宴の席に響き渡る。
信長はその音を探す様に、伏せた目を上げた。
「つっ…」
そこには、月明かりに照らされ、人とは思えぬ麗しい顔をしたなおの姿があった。