第9章 穏やかな日々
第三者目線
なおが天主を出ると、信長は物思いにふける。
『本当に此奴は面白い』
確かに城には大勢の働く者達がいた。
その子ども達は、親がいるものは良いがいないもの達も多く、交代で子どもたちを見ている様だった。
『亡くなった親の多くは、戦での事…』
信長は特に父を亡くした者達には、多くの金を渡して来た。
手駒としていつまでも役に立ってくれることを願い、信長自身無理を強いることはない。
『だが…天寿というものがある以上、こればかりは俺の手に負えるものでもない』
そう考えていた。
『安心して働ける場所』
その言葉に信長はいたく惹かれた。
『子どもの心配をせず働ければ、余計な過ちを犯す事もない。子ども達も親の働く姿を見れば、そこに感謝の念も生まれる。これほどの妙案はなかろう』
だが、それより信長の心を動かしたのは、なおが語る時の表情だった。
『今迄見て来た中で、1番良い笑顔だった』
その顔をずっと見ていたいと思った。
『世話役が何をするのか知りもせず、あんなにあっさりと返事をするとは思わなんだが…暫く楽しくなりそうだ」
信長はニヤリと笑う。
「お屋形様」
「何だ。秀吉」
なおを送って来た秀吉は、また天主へと戻って来た。
「なおの世話役は承知しましたが、夜もとは…」
「俺に苦言を呈すのか」
「なおはまだ…」
秀吉は夜に女を呼ぶ理由を知っていた。ただ、それをなおに強いることで、またなおが壊れることを恐れた。
「そんなことはわかっておる」
「では何故」
秀吉はなおも食い下がる。
「五月蝿いぞ秀吉」
信長は口調を荒げる。
「はっ。申し訳御座いません」
それ以上、秀吉は何も言えず天主を後にする。
「側に置きたい…ただそれだけだ。他意はない」
一瞬浮かんだ【あの男】
信長はそれを意識から振り払い
自分に言い聞かせる様に呟いた。