第9章 穏やかな日々
なお目線
今日は皆急ぎの仕事はないと、そのまま暫しお茶をすることになった。
「秀兄。そういえば、今日は信長様はどうされたの?」
「あぁ。お前が来るからとお誘いしたのだがな…」
少し沈んだ顔で秀兄は呟く
「私のせいかな?御加減でも悪くなったのかな?」
数日前の夜を思い出す。
『あの時なんで抱きしめられたんだろう』
そう考えると少し頰が赤くなるのを感じる。
「どうした?顔が紅くないか?また熱でも…」
私の顔色に気付くと、秀兄は額に手を当てる。
「大丈夫だよ」
私は恥ずかしくなって、話を逸らす。
「あのね…」
「どうした?」
「私、お仕事がしたいの」
「へっ?」
秀兄は不思議そうな顔をする。
「何か買いたいものでもあるのか?なら、お金は準備してやるから…」
「そうじゃないの!私、ここで迷惑かけ通しで…少しでもみんなに返したいし…元々働くのは大好きだから、もう元気になったし…ダメかな?」
そう一気に捲し立てる。
「…」
皆が何か考える様に黙り込む。
「よし。わかった。お屋形様に伝えよう。一緒に行くか?」
秀兄はそう提案してくれる。
「うん。」
返事はしたものの、あの夜の事を思い出すと、なぜかドキドキする自分に気づく。
「そんなに呆けてて、仕事が出来るのか?」
政宗が顔を覗き込んでくる。
「出来ますよ!それに呆けてなんかないです。考え事してただけで…」
「微かな頭で考えてると、知恵熱が出るぞ。くくっ」
「光秀さんも酷すぎます!」
「…そもそも、まだ元気じゃないし…無理しないでよね。仕事増える」
「うっ。無理は…しません」
家康の視線が痛い。
「無理するつもりがなくても、するからな」
秀兄まで心配そうな顔を向ける。
「私も一緒に仕事をさせて頂くので大丈夫です。2度と無理はさせません!」
いつ来たのか?秋野が端からそう言うと、皆が安心した様な顔を向ける。
「私って…信用ないね」
ポツリと呟く。
「なお様そんな事ないですよ。皆様、なおが大事ですから、ご心配なされているだけです」
三成くんが天使の微笑みを向けてくれる。
「三成くん…ありがとう」
私もその微笑みにつられる様に、笑顔を向けた。
「あー。じゃあ、天主に行くか」
秀兄がそう言うと皆はそれぞれに立ち上がり、部屋を出ていった。