第8章 再会
第三者目線
『今日は安らかだな』
信長はなおの寝顔を見ていた。
当然のように現れる信長に、秋野ももう何も言わないで下がるようになった。
『最初は何かと煩かったが…それも此奴の事を考えればのこと…』
武将たちとの距離は縮まりつつあることが安心材料になっている事を信長は感じていた。
秀吉は【秀兄】と呼ばれ、その名の通り兄のように面倒を見ている。
三成は秀吉についてきては、本を読んでやったり文字を教えてやったりと世話を焼いている。
家康はまるでなお専属の御典医の様に、毎日様子を見にきている。
政宗はご飯やお菓子を毎日差し入れし、他愛もない話をしている。
光秀は、ふらりとやってきてはなおを揶揄って楽しんでる。
信長もまた、夜になると部屋を訪れ大半を過ごしていた。
『城が賑やかになったな…此奴1人来たことで』
その寝顔は日々穏やかになり、熱や傷の痛みにうなされることはなくなった。
また、武将たちとの関係が出来たことで、異性に対して前の様な拒絶反応もなくなり、夢にうなされることもなくなっていた。
『もう、来ずともよいか…』
寝顔を見ながら立ち上がろうとした時
「…うぅっ…」
なおの顔が歪む。
「つっっ。あぁ〜…い、やぁ…」
信長は再び座り、優しく髪を撫でる。
呼吸が落ち着き、ゆっくりと手を離そうとした時、その手になおの手が触れる。
なおはそのまま信長の手を握り頰にその手を寄せると、ゆったりと微笑んだ。
「佐助兄。やっと…あ、えた」
胸の中に黒いシミが落ちた様だった。
それは、少しずつ…少しずつ胸の中に広がる。
「何故だ…何故こんなにも心が乱される」
信長は手を乱暴に振りほどく。
「あっ…」
なおはその振動にゆっくりと目を開ける。
「信長…様?」
何もなかった様に名前を呼ばれ、信長は形容しがたい想いをぶつけるように、なおを抱きしめた。
なおは突然のことに、何が起こったかわからなかったが、抱きしめられていることに気づくと、無意識に身体が硬直し肩口に鈍い痛みが走る。
「いたっ…」
信長はその声に我に返ると、腕をほどき立ち上がり、そのままなおを見ることなく外へと出る。
「信長様」
なおの呼びかけに答えることはなかった。