第7章 ぬくもり
第三者目線
「…目が覚めたか…」
信長は秀吉の報告を受け、そう呟いたまま黙り込む。
「お屋形様」
呼んだ声にも反応がない。
信長は、あの日の事を思い出していた。
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『何をしているんだ?』
なおは、信長から少し離れた場所で、震えるでもなく、怯えるでもなく、ただ呆然と立ち尽くしていた。
『どこを見ているんだ』
なおの目の先を追うも、そこには幕しかない。
「どうした?」
声をかけると一瞬身をすくませ何かを言おうとしているが、声になっていない。
『眼にチカラがないな。死にたいと思っている割には…やはり女子、怖いのか』
信長はなおに続けて声をかける。
「怖いのか?時期終わる」
それからは、伝令が次々に来て信長はなおを見る暇もなかった。
戦況は上々だった。
信長が死んだと思っている輩はたくさんいた。
ここで姿を見せること。
明らかに少ない兵で相手を叩くこと。
そうする事で、謀反を起こそうとしている奴らを一気に黙らす事が出来る。
そして、それはもうすぐ成されようとしていた。
『…油断があったのか?』
なおの背に矢が刺さるのを、見ているだけしか出来なかった自分に、信長は苛立った。
「のぶ…な、がさま…よか…よか、た」
あの時、なおは無意識に笑っていた。
『…あんなに嫌がっていたのに、何故あの様な顔を…』
信長は不思議に思っていた。
そして、同時になおへの気持ちが膨らんで、抑えきれなくなって来ていた。
『死なせたくない。そばに、そばにいつまでも置きたい。』
何故、そう思うのか?信長にはわからないでいた。
「わ、たし、つっ…しに、たくな…い」
そう言って涙を一筋流したなおが、痛みに震えているのに、綺麗で儚く、愛おしく、その刹那気が触れるかと思った。
『…俺は何を…』
気づきたい様な、気づいてはいけない様な、そんな気持ちに信長の心はかき乱されていた。