第6章 本心
第三者目線
信長は、なおを見つめていた。
「なお姫様は本当にお美しい」
「今度は、息子を連れてきます」
「この様な姫君を隠しておられるとは…」
挨拶の列は途切れる事なく、褒めたり、息子の嫁にと願い出たり。
その度に、なおはにっこりと笑っていた。
『もう、限界か?』
その笑顔は引きつり、疲労の色が隠せない。
「姫。こちらに来て酌をしろ」
信長はなおに声をかける。
その声に、身をすくめるなお。
秀吉が声をかけると、なおは身も表情を和らげる。
『ふん。つまらん』
そう心の中で呟く。
『何がつまらんのだ。』
その呟きに疑問を持ったが、なおが来たので思考を止める。
『震えておるのか』
カタカタと震える手を見る。
安心する一言を言ってやりたいと思う気持ちはあるが、言葉は出てこない。
なおに注がれた酒を一気に煽る。
「貴様は飲まんのか?」
「…飲んだ事がないので…」
「何故だ」
「私の時代は、お酒を飲める年齢が決まっていて、私はその年令になったばかりなんです」
『そんな風習があるのか。面白い』
「そうか…では今日呑め」
『飲めば少しは緊張もほぐれよう』
心の中で思う。
「…怖いので無理です」
なおは少し怯えた様に言う。
「何が怖い」
「どうなるかわからないから…意識がなくなったら……」
『そうか…そんなに恐ろしいのか』
信長はなおの身の内に潜む恐怖が、相当なものだと思い知る。
「お屋形様。そろそろなおを休ませたいのですが…」
「ふんっ。つまらん。
今日は良かろう」
『飲めぬのなら、早く布団に入った方が良かろう。
しかし、何故秀吉が進言する』
「祝いの宴では、飲んでもらうぞ。
今日は許してやるのだ。
今度は無理とは言わさんぞ」
秀吉へと苛立ちを感じ、そう告げる。
「ですが…」
「俺に逆らうか?」
「…申し訳ありません」
「もういい、下がれ」
「なおを部屋まで送ってまいります」
部屋をでるなおと秀吉を信長は見つめていた。
『あんなに穏やかな顔をしよって…』
信長は、理解出来ない苛立ちを流し込む様に、酔えない酒を飲み続けた。