第5章 心をみつめて
第三者目線
秀吉は悩んでいた。
「もう用はない」
信長の一言で、3人は何も言えず部屋へと戻った。
『どうしたらいいんだ…』
思わずため息が出る。
「秀吉様。本当に申し訳ありません。
なお様も、私は何の役にも立たず…この様なことに…」
泣きそうな顔で秋野は2人に頭を下げる。
「その様な事を申すな。俺も何も出来なかった」
「ですが、話す機会を与えて頂いたのに…」
「もういいんだ。それより、どうするのか?考えよう」
そう言葉をつないだ。
「なおは馬に乗れるのか?」
「いえ…乗れません」
「では、秋野。お前と一緒に乗ってもらうしかないな…」
「政宗や家康とは、その…無理だろう?」
秀吉は、探るようになおに聞く。
「……は、い」
なおは少し苦しげに呟く。
「秋野は大丈夫か?」
「はい。明日、一緒に乗ってみます。なお様宜しいですか?」
「…はい。」
少し間はあったがなおはそう返事をした。
『本当は行きたくない、でも…』
心の葛藤は尽きることはない。
でも、行く以外の選択肢は、なおにはなかった。
「秀吉様。あと1つお願いが、なお様の袴のご準備をお願いいたします」
「わかった。すぐに用意させよう」
そう言うと秀吉は立ち上がり外へと向かおうとする。
その歩を緩めると
「今日の夕餉は2人で食べれる様にしておくから、ゆっくりと休めよ」
そう言って、なおの頭に手を置く。
「あっ。」
なおのあげた小さな声に、秀吉はすぐに手を離す。
「すまん!つい。」
バツの悪そうな顔をする秀吉。
「ふふっ」
その顔を見てなおは思わず、笑っていた。
「秀吉さん。大丈夫です。
何だか、秀吉さんの手は佐助兄の手を思い出します。
だから、大丈夫です。」
「さすけにい?」
「血は繋がってないけど、兄の様に優しくしてくれた人です」
「そうか…」
秀吉はそう言いながらなおの頭にそっと手を置く。
「俺が代わりになるなら、お前の兄になってやろう」
涙を堪えるなおにそう優しく呟いた。
泣きそうな笑顔で見つめるなおを見て
『せめて、少しでも今の様に笑える様に支えてやらなきゃな…』
秀吉は、そう思った。