第5章 心をみつめて
なお目線
『お兄ちゃんが出来た』
心の中で呟くと胸が暖かくて、さっきまでの不安が少し和らいだ気がする。
「なお様。嬉しそうですね」
そう聞いてきた秋野の顔を見る。
「お母さんもいた」
つい声に出して呟くと、秋野は優しい顔で笑ってくれる。
『佐助兄。私ちゃんと生きてるよ。場所は違うけど生きてるよ』
心の中で呟く。
「なお様、秋野様。失礼致します」
外から声がかかる。
「…はい。」
「秀吉様からなお様のお着物を預かってまいりました」
秋野は襖を開けると「ありがとう」と声をかけ、着物を持ち部屋へと戻ってきた。
秋野と一緒に着物を広げてみる。
「とても上等な生地ですね。」
秋野はため息と共に呟く。
そこには、白藍の小袖と濃紺の袴。
「私がここに来た時と同じ色合いだ」
もう切り裂かれてしまって、着れなくなったTシャツとジーンズ。
その色に良く似ていた。
「なお様。お召しになって、秀吉様にお会いになりますか?」
秋野が笑顔でそう告げる。
「はい。」
私も笑顔でそう答えた。
『お礼も言いたいな…言えるかな?』
私は少しうきうきした気持ちで、着替えを始めた。