第34章 不安
信長目線
『どこに行った?』
女将に聞いた野原へは、馬をかければすぐに着いた。
雨は霧雨。身体を少しずつしっとりと濡らしていく。
そして、見通しのきかない視界は不安を煽っていく。
「なお!なお!」
何があるかわからない以上、あまり早駆けも出来ず気持ちばかりが焦っていく。
『…雷にうたれてこの世に来たのなら…。次にうたれれば…。』
考えたくないが…間違いなく…。
「離せぬ…彼奴と離れるなど…」
小さく呟くと、ゆっくりと馬を降りた。
そんなに広くないと聞いた野原は、果てがない程広く感じる。
馬を引き歩きながら、後ろを振り返るも入り口は見えず、前を見ても先は見えない。
「…なお」
小さく呟く。
「…信長…さま?」
「なお!」
小さな呟きが聞こえ…もう一度名前を呼んだ。
「信長様!」
前から声が聞こえた気がして、歩を進める。
見えてきた大きな木の下。
蹲ったなおの姿が見えた。
手綱から手を離し、その小さな姿に駆け寄ると身体を起し、その存在を確かめるように抱き締めた。
「なお…」
「信長様…」
胸に顔を埋めるその小さな身体を包み込む。
「…ごめんなさい。また、心配掛けてしまった」
泣き出しそうな声に、少し身体を離すと顎を掬い上げる。
潤んだ目が見えて、その瞼にそっとキスを落とす。
「…本当だ。何度心配をかければ気がすむのだ」
言葉と裏腹に緩む口元を隠すように、今度は唇にキスをする。
「身体は冷えておらぬか…」
懐妊の身。
少しの冷えも身体に応えるはずだと、声をかける。
「大丈夫です…木の下に居たからあまり濡れてないから…信長様こそ大丈夫ですか?」