第33章 諦め
なお目線
『…信長様』
私は自分のお腹にそっと手を当てる。
『…医療の発達してない時代だもの…無事に産まれることを当然だと言えないよね』
沸々と湧いてくる不安が、心を蝕んでいく。
私はそっと…その場を離れる。
それ以上話を聞きたくなかった。
『側室など持たないと、信長様は約束してくれた。
でも…もし、もしのぞみが産まれなかったら?
子どもが産めないと…信長様は他の誰かと…?』
そんな事ないと…そう思うのに、確実なものなどない気がして…落ち着かない。
「なお姫さま?どうなされましたか?」
不意に声をかけられて、身体がピクリと震える。
「女将さん…少し散歩しようと思って…近くに良い所はありませんか?」
私は、不安を押し殺して微笑む。
「近くに野原がありますよ。お供をつけましょう。暫し待たれてくださいね」
女将さんはそう言うと、屋敷の奥へと進んでいった。
私は…待つことをせず一人で外へと足を進める。
『ごめんなさい…一人になりたい』
信長様に抱えてもらおうと思ったことを、思い出したけど…私はそれをすることが出来ない。
『甘えるのって難しいよ…少しだけ良いよね。すぐに戻れば大丈夫』
私は自分に言い聞かせるように、心の中で呟くと屋敷を離れた。