第33章 諦め
第三者目線
なおはのぼせそうだからと、一足先に湯殿から上がり信長の元へ急いでいた。
『…不安を一緒に抱えてやる』
そう言ってくれた信長に、すぐにでも抱きしめて欲しかった。
身重の身体は思う様に動かなくて…でも、急ぎ足で部屋の前に来た。
外から声をかけようとして、自分の名前を呼ばれたことに一瞬手が止まる。
……………………………………
信長がなおの帰りを待っていると、謙信と佐助があらわれた。
「何の用だ」
短く問い開いた襖から見えた2人の姿を見る。
「沙耶の姿が見えぬので寄ったまでのこと…」
謙信はそう言いながら、部屋を見渡しずかずかと中へと入ってきた。
それを気に止める様子もなく、信長は答える。
「彼奴等なら、湯殿に行っている」
信長の答えを聞き、佐助が部屋へと入ってくる。
そして、信長の目の前に座ると黙って頭を下げた。
「…何のつもりだ」
「先日は、なおと話す時間を頂きありがとうございました」
「貴様の為ではない…なおの為だ。貴様に礼を言われる筋合いはない」
「それでも…礼はしたかったので…」
そう言うと佐助は頭を上げる。
「後…なおの事でお話が…」
「何だ」
「お二人のお子。どう育てるおつもりでしょうか?」
その問いの意味が分からず、信長は動きを止めた。
「500年後では、自分の子は自分で育てるのだそうだ。
今の様に乳母をつける事もなく、親が全て面倒を見る」
その様子を見ていた謙信は付け足すようにそう言った。
「俺に拘りはない…」
「俺以外に拘りがあるのだろう?頭の固い家臣か?」
謙信は微かに笑うと、信長を見遣る。
「…その件については、なおも含めて話すつもりだ」
「俺が言える事ではないかもしれない…ですが、なおは家族に夢を持っています。子と離れることは…」
佐助は信長に今一度頭を下げた。
「佐助…お前の思いも分かるが、そうともいかないのがこの世だ…無事に産まれるかも分からん。
無事に産まれなければ、他の女も…」
「そんなことなどない。なお以外の女子など要らぬ。」
「貴様だけの思いで、どうなることでもなかろう?俺とて…日々煩い家臣に言われている。
沙耶以外の女も手に入れろ…とな…」