第33章 諦め
なお目線
「はぁ〜〜気持ちいい〜」
「ふふっ。なお様ったら…」
思いっきり手足を伸ばすと、身体の隅々まで暖かな熱が満ちてくる。その心地よさを堪能する。
「あっ…」
お腹にぽこんと小さな振動がくる。
「のぞみも気持ちいいのね」
母は、ゆっくりと私のお腹に手を置くと、そっと話しかける。
すると、返事をする様にまた、ぽこんとお腹が動く。
「返事してくれたのね。私があなたのおばあちゃんよ。
早く逢いたいわね〜」
嬉しそうにお腹を撫でる母を見て、嬉しさが込み上げてくる。
「なお様…」
秋野にそっと頰を撫でられて、自分が泣いてる事に気付く。
「なおの泣き虫は、なかなか治らないのね」
反対の頰をそっと撫でられて、涙がポロポロと止まらなくなる。
「お母さん…秋野…。
幸せって、嬉しいけど…やっぱり怖い」
小さく呟くと2人はそっと手を取ってくれる。
「そうね…怖いことたくさんあったものね。
けど、確かなものなんて何もない。
これからが、幸せか、不幸かなんて、誰にもわからない。
だから、 それを…どう信じて、どう生きて行くのかは、自分次第だからね」
母はゆっくりと宥めるように話をする。
「何があっても生きると決めていれば…その経過は経過にしか過ぎないから、怖いことも、嫌なことも、楽しいことも、嬉しいことも…全て過ぎていくから」
「それに、なおはもう1人じゃない。信長様とのぞみがいるでしょう?
3人で分け合えば辛い想いは3分の1。嬉しい想いは3倍になるのよ!
私とお父さんとなおは、そうだったでしょう?」
その言葉に、私は大きく頷いた。
幸せを疑わなかったあの頃…あまりに幼くて良くは覚えてないけど…。
「けど…それも…」
先を言えずに言葉が止まる。
「…そうね。でも、私は幸せだったし、今も幸せよ」
母はふわりと笑って私を見つめた。
「なお様…秋野のいつも言う言葉覚えてますか?」
秋野は微笑んで問いかける。
「いつも一緒にいてくれるって…」
「それも…いつまで守れるかわからぬ約束です。
でも、なお様は信じてくださっているでしょう?」
秋野の問いかけに、小さく頷いた。