第33章 諦め
なお目線
「なお姫様。久方ぶりですね」
宿の女将さんに声をかけられ、笑顔で応える。
「また、お世話になります」
深々とお辞儀をすると、身体をそっと起こされる。
「そんな事なさらないでください。御子に障るといけません」
そう言ってお腹を見て微笑んで、触っていいかと聞かれた。
小さく頷くと、そっと壊れ物でも扱うように撫でてくれて、幸せな気分になる。
「本当に…ようございました」
一言呟いて顔を上げる前に、目元を抑える女将さん。
それだけで、一度来ただけの私を心配してくれたのだと…はっきりと分かる。
「はい!後は元気に産むだけです!」
「それだけ、元気があれば大丈夫ですね」
女将さんは、笑顔で答えてくれた。
「まぁ、こんなところでは何ですから、中へ。
お連れの方もお待ちですよ」
その言葉に、秋野と私は顔を見合わせる。
後ろでは、秀兄が信長様にまだ頭を下げてて、家康はその2人を見てる…。
「あら。やっと着いたの?」
聞き慣れた声に、前を向く。
「お、お母さん!」
そこには、ドッキリ成功!と笑顔で喜ぶ、母がいた。
……………………………………
「帰ったんじゃなかったの?」
部屋まで通されると、母に訊ねる。
「帰ろうと思ったんだけど…もう少しなおと一緒に居たくて、あっ。謙信様と佐助も一緒よ」
ふふっ。と無邪気に笑う。
「勿論、お邪魔はしないから…ねっ?」
付け足すように言うと、これから湯殿に行くと言う母と一緒に、向かうことにした。
「信長様…行ってきてもいいですか?」
隣に居た信長様に聞く。
「あぁ…また暫く会えぬだろうから…のんびりして来い」
笑顔で答えてくれる信長様に微笑み返すと、どうせなら…と秋野と3人で向かうことにした。