第32章 繋ぐ
第三者目線
「なおちゃん」
「佐助兄…」
呼ばれた声に目を開けると、いつの間に来たのか佐助の姿があった。
佐助とこのように面と向かう事は、あの長屋以来だったなおは、少し落ち着かない様子で佐助を見つめた。
「ごめん…警戒してるよね」
それを感じ取った佐助は、少し距離を開けその姿を見つめた。
「…こっちこそごめんなさい。私を助けてくれたのは佐助兄だって聞いてたのに、お礼も言えなくて…。
佐助兄。ありがとう」
なおは、ブランコから立ち上がると頭を下げた。
「……」
佐助は返事をせずにその姿を見つめていた。
返事がない事を不審に思ったなおは顔を上げる。
「俺こそ…ごめん。もっと早くに助けてれば…」
手を握りしめ、下を向いたまま呟く佐助の手を、なおはそっと取って自身のお腹にあてる。
佐助は驚きながらも、爪が食い込むほど握っていた手をそっと開いた。
「佐助兄…私も、のぞみも助けてくれてありがとう。私がいなくなっていたら、のぞみもいなかった」
広がってくれた手に安心しながら、なおは言葉を紡ぐ。
「信長様も…私がいない世なんかって言ってた。私がいなくなってたら…どうなってたかわからないって、今なら思う。
佐助兄はみんなを助けてくれたんだよ。 だから、そんなに自分を責めないで…」
「なおちゃん…少しだけ、このままで…」
佐助はそっとなおを抱きしめた。
穏やかで、静かな時が二人を包む。
そして、なおはそっと佐助の腕から出ると、顔を上げた。
「…佐助兄。佐助兄の気持ちに応えられなくてごめんなさい。
でも…家族として、佐助兄のことすきだし、大切だと思ってる。本当に身勝手だと思うけど…ごめんなさい」
「なおちゃん…なおちゃんの事、今でも好きだよ」
佐助が告げた言葉になおは息をのむ。
佐助は少し寂しげに笑うと、なおの頭をそっと撫でる。
「正直…この想いをどうしたら良いのか?今はわからない。
でも…君を傷つけることだけは、したくないから…しないから、兄として側にいる事は許してほしい」
そう、呟いた。