第31章 甘える
信長様目線
なおを横抱きにすると、褥へと足を向けそっとなおを降ろした。
「何が不安だ?全部言ってみろ」
向かい合うように座ると、なおはそっと手を伸ばす。
その手を掴み自分の方に引き寄せると、おずおずと膝の上に横を向いて座った。
「甘えたいのか?」
なおの髪をそっと撫でると、その手に誘われるように胸元へと頭を寄せる。
「…幸せに慣れてないから、こんなに幸せだと…不安なんです。また、この幸せが何処かに行ってしまいそうで…」
胸元でボソボソと呟くなお。
黙って髪を撫でていると、腰を支えた手に涙が落ちてくる。
「…もう、大丈夫って…言ってくれてる、のに…怖くて…」
それ以上は言葉にならないのか、途切れた言葉の代わりに涙が手を濡らしていく。
「なお。今まではその不安を一人で胸に抱えて、生きてきたのだな」
そう呟くと、ゆるゆると涙に濡れた顔をこちらに向ける。
「不安なものは仕方ない。そうそう消えるものではなかろう。
だから、そんな時は俺に甘えろ。今の様に…。
その不安、一緒に抱えてやる。
幸せな時だけ、一緒に居たい訳ではない…。
不安な時も、哀しい時も、楽しい時も、嬉しい時も。
全ての時を…なおと過ごしたいと思ってる。
だから、不安でも構わん。
俺がいつでもそばにおる」
なおの頰にそっと手を当て、涙を拭う。
「…はい」
小さく呟くなおにキスをすると、腕の中に閉じ込める様に抱きしめる。
「今日は天気も良い…。子どもらに会いに行くか」
そう言うと、なおの目が輝きを見せ、微笑みが溢れる。
「行っても良いんですか?!」
嬉しそうな声色に、自身の気持ちも浮き立つ様な感覚を覚える。
「あぁ。皆が心配しておると秀吉も言っておった。少しなら、問題ないだろう。
ぶらんこにも乗るか?」
「はい!」
久しぶりの満面の笑みを見て、なおを抱えると首にしっかりとつかまって置く様に告げ、天主を出る。
「重くないですか」
気遣わしげに聞いてくる。
「貴様が嬉しいと、俺も嬉しい。これぐらい容易いものだ」
そう言ってもう一度、キスをした。
照れる横顔を眺め、ゆっくりと歩を進めた。