第31章 甘える
なお目線
「なお様おはようございます」
「おはよう。秋野」
あれから幾日か経ち、お母さんと謙信様は帰っていった。
『私を娘にするって言われたときには、驚いたけど…』
後ろ盾のない私が信長様と結婚する為には、その方が良いのだとお母さんに言われ…何よりこれで謙信様と信長様が戦をしないで済むことは、私とお母さんにとっては何より嬉しい事だった。
「なお様」
「あっ…ごめんなさい。考え事してて…」
「では、改めて。本日は広間においでになりませんか?」
秋野は微笑んで、私の着物を出してくれる。
「思いのほか悪阻も酷くない様ですし、体調も戻ってきたので…無理がなければと、信長様より言付かっております」
「そうだね。秀兄以外とは逢えてないし…家康の作ってくれたお薬も効いてて、気分も良いから行きたい」
私は、秋野に微笑み返す。
「では、ご準備してみましょうか。途中で辛くなる様でしたらやめましょう」
秋野はそう言うと、着替えや髪を整えてくれる。
「少しお腹が出てきましたか」
着替えの最中、秋野はそっと私のお腹に手をあてる。
「うーん。よく分からない…でも、たしかにこの中にのぞみがいるんだよね」
私は秋野の手にそっと手を重ねる。
信長様と二人で夢を見たあの日から、お腹に話しかける時は【のぞみ】と呼んでいた。
産まれた子が男でも、女でも【のぞみ】と名付ける事も決めている。
「私達に、希望をくれた子」
私がそっと呟くと秋野は微笑む。
「安土に希望をもたらすお子様ですよ」
「そうだね。早く逢いたい」
「そうですね」
少し泣きそうな微笑みで秋野が私の頭をそっと撫でてくれた。
「さあ、着替えてしまいましょう。お身体が冷えてはなりませんからね」
そう言うと秋野はまた、手を動かし始めた。
「なお。準備は出来たか」
「はい」
信長様の声に応えると、天主に戻ってきた信長様は私をそっと横抱きにして、立ち上がる。
「…歩いて行けますよ」
言っても無駄かもしれないけど、恥ずかしさに言ってしまう。
そんなのお見通しだと言わんばかりに、私にそっとキスすると
「…貴様は、のぞみと一緒に俺に甘えてれば良いのだ」
そう言って歩きはじめた。
私はしっかりと信長様の首に手を回すと、信長様の肩口に顔を寄せ紅くなってる顔を隠した。