第30章 夢
第三者目線
「貴様!何を言う!」
秀吉はその言葉に声を荒げ、佐助に食ってかかろうとする。
「黙れ!秀吉」
「しかし…」
「黙れと言うただろう。続きを話せ」
信長の言葉に、秀吉は拳をきつく握りしめ座に戻る。
「すいません。言い方が端的過ぎました。
本当に死ぬのではなく、死んだことにして欲しいと言うことです」
それでも、納得のいかない表情の秀吉に、佐助は更に言葉を繋げる。
「謙信様も、信長様も…俺たちが居た時代では、この時期既に亡くなっているのです。
信長様は、本能寺で…。謙信様は戦の際に…。
それを俺たちが助けてしまった。更に信長様に至っては、子どもが出来てしまった。
それは、歴史を大きく変えているんです」
佐助は、出来るだけ歴史を話したくないと思っていたが、その点に関して部分だけ皆に話をした。
「歴史を修正する意図が少なからずあるとするならば、今をそうする事が必要です。
謙信様には既に動いて頂きました。後は、信長様が動いて頂ければ…余程の事がない限り、ワームホールの発生はないかと思います」
黙って聞いていた信長は、秀吉を見る。
「秀吉。俺の墓を建てろ。そして、家督を貴様に譲る」
秀吉は目を見開き、言葉を失う。
「お屋形様!俺にそのような事!」
秀吉は、声を荒げ信長に叫ぶ。
「貴様以外に誰がおる」
信長は静かにそう告げる。
「しかし…」
「言い方を変えてやる。
秀吉。貴様しかおらん」
静かに重く響いた声に、秀吉は息を飲み大きく深呼吸する。
「有り難きお言葉」
秀吉は信長に深々と頭を下げた。
「頼んだぞ」
信長がそう言うと、秀吉はすぐに動き始めた。
「後は…なお自身のことだな」
信長は、秀吉と三成が動き始めたのを確認すると、謙信と沙耶を見る。
「謙信様…なおの事。本当に娘として迎えるのですか」
沙耶が問いかけた言葉に、信長や安土の武将達は目を見開く。
謙信は問題ないと言いたげに、頷く。
「貴様の首を取れんのはつまらんが、それ以上に俺は沙耶を失う気はない」
「信玄はどうする」
信長は謙信の朋友の名を出す。
「彼奴には、彼奴の都合がある。彼奴が決めれば良い事だ」
謙信は、あっさりとそう言い切る。
「信玄様も私が説得いたします」
その言葉を継いで、沙耶はにこやかにそう答えた。