第30章 夢
なお目線
『足がもつれて上手く歩けない…早く、早く逃げなきゃ…』
私は動かない足を動かそうと、必死だった。
雷が襲ってくるから…。
「……なお…なお!」
誰かが呼んでる…誰?
「えっ、はっ…信長様?」
私は開いていてた筈の目を開けた。
「如何した?また、魘されておったぞ」
信長様の心配した顔が近くにあって、あのまま寝てしまった事に気付いた。
「また…雷の夢を…」
身体や足が濡れてる気がして、そっと自分の髪に触れる。
「ずっとここにおった…何も案ずることはない」
信長様はそっと抱きしめてくれた。
自然と強張っていた身体が、その温もり解きほぐされるのを感じる。
「そろそろ朝餉だ。大丈夫か?もし辛いのなら、無理せずとも良いぞ」
私の背をそっと撫でながら、優しく囁いてくれた。
「大丈夫です。心配かけてごめんなさい」
私は信長様の腰に手を回すと、ギュッと抱きしめ返した。
「なお…」
信長様は身体をそっと離し、キスをしてくれる。
一瞬のキスでも、その愛情を感じて…幸せな気持ちに、心はおちついてくる。
「なお様…御膳をお持ちしました」
外から秋野の声が聞こえて、襖が開いた。
信長様は、褥にそっと私を降ろしてくれる。
「お母さん。秋野。おはようございます」
私は2人に声をかけると、2人は笑っておはようを言ってくれる。
それを見て信長様は立ち上がる。
「なお大人しくしておるのだぞ。軍議が終わればすぐ戻る」
そう言って私の頭をそっと撫でると、外へと出ようとする。
「沙耶…朝餉が終わったら、広間に来い。祝言の話がしたい」
「分かりました」
「では、行ってくる」
信長様は、私にまた微笑むと外に出た。
「さあ、今日も政宗様が作ってくださいましたよ!」
秋野がそう声をかけて、ご飯の時間が始まる。
「冷めてるだけで、食べられるもんなんだね」
私は、御膳に手をつけながら少しずつ食べていく。
「私も酷かったから。似てしまったのね。果物があると良いのだけど…こちらにはあまりないものね。そろそろ柿が出てくるから、それは食べれると思うわよ」
沙耶はにっこりと笑って、政宗に伝えておくと言ってくれた。
「たくさん食べて、元気なお子様を産んでくださいね」
秋野も笑ってそう言ってくれた。