第2章 心を閉ざして
第三者目線
「失礼します」
声をかけると襖を開け、中へ入る。
「奴はどうだ?」
「身体はもう少しすれば……ですが」
家康が言い淀む。
「何があったかは知らんが、そうそう戻るものでもなかろう。」
信長のその言葉に、言わずとも分かっている事を知ると、それ以上何も言わずその場を離れようとした。
「身体が治ったら連れてこい。」
「御意」
短く返事をして家康は天主を去った。
信長は静かになった天主で物想いに耽る。
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なおが安土に来て3日目の夜。
信長はまたなおの部屋に居た。
家康や女中は昼に様子を見させている。
ましてや家康には他の仕事もある。
「どうせ、夜は眠れんからな……」
言い訳の様に独りごちて、額のてぬぐいを替えるため手に取った。
「まだ下がらんか…」
てぬぐいにはまだ熱さが残り、頰の赤みも消えていない。
熱の具合が気になり頰に手を寄せる。
「いやぁ!あぁ!いや!」
突然大きな声を出しなおの身体がビクリと跳ね上がる。
信長は咄嗟に手を引く。
「あぁ!いや!いや〜!」
手を離しても叫び声は続き、目には大粒の涙が溜まっていく。
信長は思わずその身体を抱きしめた。
一瞬の抵抗はあったものの、背にまわした手で背をさすっていると、少しづつ身体が弛緩していく。
完全に力が抜けた事を確認すると、そっとなおを褥に横たえる。
涙を手で拭っているとなおがその手にさわる。
「…つっ………。」
一瞬離そうとするもその手は何かにすがる様に離さない。
手を離さない様に力を入れた所為なのか、苦痛に顔を歪める。
信長は空いた手でなおの頭を撫で
「……大丈夫だ……」
呟いた。
少しづつ呼吸が整い、撫でていた手を離そうとした時
「さ、すけにぃ……」
なおはそう呟くと
華が咲いた様に笑った。
頭に置いた手が止まる。その手を頰によせると、
信長は思わずその顔に唇を寄せて行く。
「うぅっ…」
熱の苦しさからか、なおから漏れたうめき声に我に返る。
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「俺は……何を…」
その時と同じ言葉は誰もいない天主に、切なく響いた。