第28章 希望
第三者目線
「…なおは、懐妊しています」
家康のその一言に、空気が一瞬浮きたつが、次の瞬間には家康の次の一言を待つ。
「…正直言って、どちらの可能性も考えられます」
家康の言葉に、みんな息をのむ。
広間はたくさんの人が居るのかと思うほど、衣擦れの音一つせず静まり返る。
「本当に…わからないのか?」
秀吉が口火を切った。
「…なおが信長様と初めて結ばれてから、襲われるまで一月程しかないんです。悪阻の出現は個人差はありますが三月程で現れる。なので…信長様のお子である可能性は高い…ですが…そうと言いきる事は難しい…」
家康は言いきると、こんな事しか言えない自分の知識の無さに、下を向いて唇を噛んだ。
「俺の子だ」
信長は広間に響き渡る声ではっきりと告げる。
「…違ったらどうするんですか」
家康の低い声が響く。
「違わぬ。誰が何を言おうと、俺の子だ」
「違ったら…育ってしまってからでは遅いんですよ!もし違えば、なおはあの事を一生悔いて生きていく事になる!子を見るたびに…苦しまなきゃならなくなる…」
家康の切ない声に皆が息を詰める。
「だから…だからどうしたと言うのだ。もしそうであっても、俺が支えればいい事だ」
「ですが…」
秀吉も堪らず声を上げる。
「煩い。なおに子を産ませる。これ以上、なおの身体に傷をつけることはならん…もう、十分傷ついた。これ以上の苦しみを与えたくはない。心は…俺が俺の人生を賭して癒す」
信長のその言葉に、皆は押し黙った。
これ以上ないなおへの深い愛情を信長から感じ、誰も言葉を告げることが出来なかった。
「話は終いだ。なおの元へ行く」
それだけを告げると、信長は席を立ち広間を後にする。
「…俺は、御典医に話を聞いて来ます」
家康も席を立つ。
残された皆は、どうする事も出来ず座り続けていた。
「なお様と代わってあげたい」
秋野はなおを想い涙を流す。
「秋野…お屋形様となお支えていくしかない…母代わりのお前がそんな事でどうする」
秀吉はなおの側によると、そっと抱きしめた。
「そうだよな…取り敢えず俺は食べられる物を考えなきゃな」
「そうです。支えていかなければ…」
「…そうだな」
皆が一様に心を決めた。