第28章 希望
第三者目線
「まだ、眠っているか…」
信長は涙で濡れたなおの頬をそっと撫でる。
「はい。あれから、何度か魘されて…」
沙耶はそんな信長を見つめながら告げる。
「沙耶はどう思う…」
「信長様のお子です」
沙耶は信長の問いに、何の躊躇もなくそう告げる。
「何故そう言い切れる」
驚いたように顔を上げた信長に沙耶はふふっと微笑む。
「それは、私の口からは言えません。すぐにわかる事です。今日は、満月。良い夢が見れますように…」
そう言うと、沙耶は立ち上がり部屋を出ようとする。
「待て…答えになっておらん」
信長の呼び止める声に、沙耶は一度振り向き微笑むと…何も言わずに外へと出ていった。
残された信長はなお一人を置いて、沙耶を追う事も出来ず…沙耶の言葉を反芻していた。
沙耶の言うことが本当であるならば、それが確証となる事が分かるのであれば、何の躊躇も、心配もなく子を産ませてやれる。
ましてや、なお自身がそれを確証として受け入れる事ができれば、それほど嬉しいことはない。
ただ、今の時点ではその確証はない…。
「俺が何を言おうと…貴様は産まぬと言うのだろうな」
なおの考えが手に取るように分かる。
分かるからこそ、なおのお腹に宿る命が、自分の子であってほしいと…心底願ってやまない。
「これ以上…貴様を傷つけたくない。俺はどうすればいい」
苦悩に満ちた声が夜の闇に吸い込まれていった。
……………………………………
「沙耶様」
「どうしたの?佐助」
自室に戻った沙耶は、暫く前に謙信と共に帰った佐助に呼ばれた。
「…謙信様より言伝です。もう、待てぬ…と…」
「ふふっ。困った殿方ですね。佐助は逃げてきたの?」
さもおかしいというように笑う。
「信玄様と幸が相手をしてくれてます。まぁ、主に幸ですが…」
「ふふっ。では、お土産買って帰らないとね。謙信様に後3日待ってくれと伝えて」
「何かなおに…」
「分かってしまう事だから、教えておくわね。なおが妊娠したの。信長様の子どもよ」
「そうですか…」
「あんな事があったから…二人は確証を持たないでいるわ。でも…今夜分かるはずだから…」
沙耶はそういうと、空に浮かぶ満月を見つめた。