第27章 微笑み
第三者目線
「失礼します。夕餉をお持ちしました」
秋野は声を掛け、なおの部屋へと入る。
「秋野。ありがとう」
沙耶は声をかけて御膳を受け取る。
「なお様にはこちらを、政宗様が粥をと…」
そう言って立ち去ろうとする秋野を追いかけるように、声が聞こえてくる。
「秋野…秋野は一緒じゃないの?」
久しぶりに聞いたなおの穏やかで抑揚のある声に、身体がピクリと跳ねる。
「…いえ、私は…」
「秋野。一緒に食べよう」
断りを入れようとした秋野の声に被せ、なおは懇願する。
「秋野。一緒に食べて、すいません。御膳をもう一つ持ってきてもらえますか?」
沙耶は一緒に御膳を運んできた女中に頼む。
「はい」
そう言うと、女中は部屋を出ていった。
「秋野。座って…」
なおはぎこちないが精一杯の笑みを、秋野に向けた。
「なお様…」
それでも座ることに躊躇する秋野に、なおは顔を伏せて呟く。
「何があっても…一緒にいてくれるんでしょう」
「…つっ」
小さく息を飲むと、ゆっくりと腰を下ろしなおの手を握る。
「はい。秋野は何があってもなお様のお側におります。いつでも…いつまでも…」
はらはらと落ちる涙を拭いもせず、秋野は微笑んだ。
…………………………………
「ごめんなさい。なお様の前では泣かないと…」
それ以上は涙で言葉にならない。
「大丈夫。分かってたから…私こそごめんなさい」
なおはそっと秋野の手を握り返した。
微笑みあう二人を見て沙耶は二人の手の上に、そっと手を重ねた。
「秋野。これからもなおをお願いします。私は、帰らなきゃならない時が来るから…」
沙耶は二人を見て微笑む。
「秋野。お願い。ずっと側にいてね」
「ありがたいお言葉…ありがとうございます」
御膳が来るまでの間、三人で見つめ合い、微笑みあった。