第27章 微笑み
第三者目線
着替えを終えたなおを、信長は躊躇なく横抱きにすると歩き出す。
危機は乗り越えたとはいえ、体力が戻っていないなおには少し歩くことも辛かった。
その度に信長はなおを抱えて歩いてくれた。
久しぶりに訪れた天主は、何も変わらずなおを迎えてくれた。
『…変わったのは…私だけ』
心の中で呟く。
信長はなおを横抱きにしたまま座る。
「疲れてはないか」
その言葉になおはこくんと頷く。
「お屋形様。お連れしました」
秀吉が外から声をかける。
横抱きにされているから、見えない背後の襖が開く音がして、衣擦れの音が一つ聞こえてくる。
『女の人?だれ?』
なおは女性と分かって安心するも、分からない相手に身体が強張る。
「お待たせいたしました」
女性は座ると頭を下げる。
なおは息をのむ。
『そんな事…』
そして、ゆっくりとその声の方に顔を向ける。
「なお」
「…おかあさん」
なおは信長の腕の中から抜けだす。
早く行きたいのに…身体は思うように動かず、這うように近づく。
沙耶はその姿に自ら駆け寄ると、その小さな身体をしっかりと抱き締めた。
「なお…やっと…逢えた」
沙耶はその身体をそっと撫でる。
「おか…ぁさん…お、かあ…さ…うっあ〜あぁ〜〜〜〜」
なおは沙耶の身体にしがみつき、泣き叫ぶ。
沙耶はそんななおをしっかり抱きしめたまま、頭を背中を何も言わず、何度も何度も撫で続けた。
……………………………………
「…寝たか」
シクシクと泣く声が少しずつ小さくなって、なおは沙耶に縋り付くように寝てしまった。
「はい。その様ですね」
沙耶はなおの頭をそっと撫でる。
「信長様…なおを受け入れてくれて、ありがとうございます」
「俺は、なおのいない世に幸せを感じることは、もうないからな」
素っ気なく答える信長の顔には、愛おしげになおを見つめる優しい瞳が見てとれた。
「…褥に運ぶか」
信長はそっとなおを横抱きにすると、なおの部屋へと向かった。