第27章 微笑み
第三者目線
朝餉を取りに外に出た秋野は、暫く歩きなおの部屋から遠ざかると、崩れ落ちる様に座り込んだ。
「なお様…」
なおの前では泣かない。
なおが意識を戻してた時そう決めたのは、秋野自身だった。
「…ふっ…くっ…」
ポタポタと雫が廊下に落ちる。
止めようと思えば思うほど、それは止まらない。
「秋野!」
上から声がして、腕を掴まれる。
「…大丈夫か?」
秀吉は遠くから秋野を見ていた。
毎日気丈になおに接していたこと、そして…なおから離れた時に泣いている事に気付いていた。
「無理はするな」
「…無理ではありません。なお様を思えばこれくらい平気ですから…」
秋野は微笑んで秀吉に告げる。
「秋野…」
「今日は沙耶様との対面もありますので…これで…」
秋野は何が言いたげな秀吉の言葉を遮り、厨へと足を進めた。
「…無理してますね」
「あぁ…」
背後から聞こえた家康の声に、秀吉は頷いた。
「今回の事で、何も感じていない奴なんていない。特に秋野は…娘の様に思っているんだ。仕方ないが…」
秀吉は困った様に頭をかく。
「…倒れなきゃ良いですね」
家康はそう言うと、広間へと歩き出した。
…………………………………
「なお」
信長は声をかけると部屋へと入っていく。
褥に座りゆっくりと顔を向けるなおの顔に、表情はなくぼーっとしているように見える。
「幾分顔色は良いな」
なおの横に座ると、頭をそっと撫でる。
「失礼します」
襖が開き秋野が部屋へと入ってくる。
「なお様の着物をお持ちしました」
秋野はそっとそれを置くと、着替えの為の退出を信長に促した。
「なお、着替えたら天主に行くぞ」
信長はそう告げると部屋をでた。
「さあ、なお様」
秋野はそっとなおを立ち上がらせると、着付けを始めた。
『もうすぐ…お逢い出来ますからね。その時には…私はもう要らないかもしれませんね』
秋野は一抹の不安を感じる。
『私は仮の母…分かってはいても辛いものですね』
「秋野?」
すこし止まった手に、なおは不安げに声をかける。
「申し訳ありません。では、髪も結いましょう」
秋野は苦しい胸の内を止め、笑顔で答えた。