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『イケメン戦国』〜生きる〜

第26章 還る


第三者目線

そっと唇を離すと、信長はなおの身体を支えたまま、短刀を取り出し鞘から抜いた。

その鋭い光になおは身を強張らせる。

「なお…貴様が死ぬと言うのなら、俺が先に死んでやる」
信長の低く穏やかな声がなおの耳に届く。

「だ…ダメです!」

「無理だ。その願いは叶えられん」
優しく微笑む顔とは裏腹な、鋭い切っ先が信長の喉元にあたる。

「いや!」
なおはあらん限りの力を出して、信長の手を握る。

「だめ…信長様。貴方は死んではだめ…」
ポロポロと涙を落とし懇願する。

「…なお…貴様のいない世に、俺はいなくていい。本能寺で死する筈だった命。貴様に捧げられるなら本望だ」

「そんな事…ない。私なんかの為に…」

「貴様は俺のせいで、この様な目にあったのだ。償いにもなろう」
喋る言葉とは裏腹に、信長の瞳は優しく、愛おしくなおを見つめる。

「いや。だめ…死なないで…」
なおは愛する人を失う恐怖に、混乱する。





「なお…俺も同じ気持ちだ。貴様に死なれたらと、そう思うだけで…気が狂いそうだ…」





信長の緋色の瞳が揺らぎ…その頰に一筋の雫が落ちていった。

「信長様…」

「なお…時は戻らぬ。

どんなに貴様を助けたいと思っても、その時間まで戻ることは叶わぬ。

だが、これから一緒にその傷癒すことは出来る。

俺に…その時間をくれぬか?

俺に…ずっと貴様を愛する時をくれぬか?

俺を…ずっと愛してはくれぬか?」

信長は短刀をそっと床に置くと、なおを胸に閉じ込めて、思いの丈をぶつけた。

なおは、抱き締められた腕から、押し当てられた胸から、信長の愛と温もりを感じて…暫く泣き続ける。


「ごめんなさい…ごめん、なさい。私が…私が不用意に…」

「なおは悪くない…何も悪くない…もう、何も言うな」
信長はなおの背を優しく撫でる。

なおは、それに答える様に信長の背にそっと手をまわした。

「なお」
信長の抱き締める手に力が入る。

「やっと…戻ってきたな。おかえり、なお」

「ただいま」
なおは小さく呟いた。
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