第26章 還る
なお目線
目を開けると、そこには信長様の顔があった。
「目が覚めたか?気分はどうだ?」
前と変わらない表情で…前と変わらない声色で…全て悪い夢かと思うほどで…でも…身体に微かに残る痛みが、それが夢でないと残酷に告げている。
『そんな顔で、そんな声で心配してもらうなんて…痴がましい』
私はそっと目を閉じる。涙が溢れないように…。
「なお…俺を見てくれ」
信長様の暖かい手が私の頰にそっと触れた。
「つっ…」
私はその手を拒否するように、顔を背ける。
流さないように我慢した涙が溢れて、頰を濡らす。
「…さわらないで…ほっ、といて…わ、わたし…きたない」
汚れた身体に触れて欲しくなくて、涙を見せたくなくて、信長様に背を向ける。
『動けたら…動けるようになったら…今度こそ…』
私は心の中で呟く。
「俺はもう…お前を手放す気はない」
そんな私の心を見透かすかのように、信長様の声が響く。
嬉しいと…本当に嬉しいと心から思う。
あんな事がなければ、素直に受け取れた言葉も…今の私には苦しみにしかならない。
「もう…ほっといてください。おねがい…お願いだから」
そこから先は、涙で言葉を繋げない。
切なくて
苦しくて
哀しくて
でも、嬉しい。
胸が…痛い。
溢れる感情が、只々涙に変わり褥を濡らしていく。
「なお」
信長様の優しく私を呼ぶ声が、更にその感情を複雑にしていく。
「もう…いや、なの…もう…もう…」
私は息が苦しくて、呼吸がおかしくなるのを感じる。
『このまま、死ねばいいのに…死んでしまえればいいのに!』
呼吸がおかしいことに気づいた信長様が、私の身体を起こす。
抵抗できない自分に苛立ちを感じる。
さわらせたくないのに…。
苦しさに閉じた目に、キスが降ってきてゆるゆると目を開ける。
「あぁ…」
そこには、初めて好きだと告げてくれた、あの時と同じ表情の信長様がいた。
「なお…愛してる」
告げられた言葉に息がつまる。
「だ、め…わ、すれ…て」
呼吸が浅くなり、苦しさが増していく。
信長様の緋色の瞳が揺れてる。
近づく顔に…私は顔を背ける。
それを分かっていたかの様に、頭を抑えられる。
優しいキスが…苦しさを埋めていった。