第26章 還る
第三者目線
信長は手の中の温もりが消えた事に気付き、目を開けた。
目線の先にはなおが文机に向かっている。
カチカチと聞きなれない音に、急激に意識を戻す。
『なお』
信長はなおの元へと急ぐ。
キラリと光る刃物が、なおの喉元を襲う。
信長は、その間に手を伸ばした。
『くっ…』
唇を噛み締めてその痛みに耐える。
自分への痛みがない事に気付いたなおは、ゆっくりと目を開け、信長を見た。
なおはカタカタと震えだす。
「なお…落ち着いて刃物から手を離せ」
信長は興奮させないように、穏やかな声でなおに呼びかける。
「俺は大丈夫だ」
そう言うと刃物を持つなおの手をそっと包んだ。
「あぁ…いや、いやぁ〜〜〜!」
「お屋形様!なお!」
大きな音がして襖が開く。
「秀吉か…なおを頼む」
信長は秀吉になおを任せると、その傷を確認しようとする。
「…俺が見ます」
いつのまにか隣にいた家康は、傷を見ると分かっていたかのように、傷の手当てを始める。
「なお。大丈夫だ。大丈夫だからな」
なおは秀吉に落ち着かされ、崩れ落ちるのが見えた。
褥に横たえると秀吉は信長の元へ駆け寄る。
「お屋形様…」
「大事ない」
信長は家康の手当てを受けると、なおの元へと戻った。
「…すいません。文机までは確認できてなかった…」
家康は悔しそうに呟く。
「良い。こうなることの予想はついていたが…この様なものがあるとは思わなかった」
信長は名前も分からぬ不思議な道具を、秀吉に預ける。
「なおの世のものか…。取り敢えず、お預かりします」
秀吉は物珍しげにそれを見ると、懐にしまった。
「2人は休め。後は俺だけで良い」
信長はなおを見つめたまま、2人に告げる。
「…分かりました。夕方、傷を見にきます」
家康はそう言うとその場を離れた。
「それでは…失礼します」
秀吉も出ていくと、静けさを取り戻した。
「分かってはいても…こたえるな…」
信長は優しくなおの髪を撫でた。