第26章 還る
第三者目線
信長は目を開けたなおを呼ぶと、なおはまだ焦点の定まらない目で信長を見つめた。
「なお。なお…」
名前を呼びながらきつく抱き締める。
いつ以来こんなに泣いたのか…わからないくらい涙が溢れる。
「のぶ…ながさ…ま」
掠れた声で名前を呼ばれ…泣きながらも笑顔が溢れる。
「なお。もう、もう離さぬ。どこにも行くな」
信長はその目に、鼻に、頰に、額に、唇にキスをする。
そして、立ち上がると部屋へと急いで戻る。
襖を開け中に入ると、何事かと皆の視線が集まる。
「家康。薬だ!なおが目覚めた!急げ!」
そう捲したてると、弾かれる様に家康は立ち上がり、その場を駆け出した。
信長はなおをゆっくりと褥に横たえる。
皆はその様子を固唾を飲んで見守っているしかなかった。
しばらくして家康が持ってきた薬湯を、信長は口移しでなおに飲ませる。
「なお眠れ。俺がそばにいる」
信長は皆を下がらせると、褥に入りなおを抱き締める。
髪をすくように撫でていると、なおはすやすやと寝息を立て始めた。
なおが戻ったことに安堵し、暫しその寝顔を見つめた後、信長も眠りに落ちていった。
…………………………………
皆は外に出た後、とりあえず部屋でひと眠りする事にした。
そんななか、家康は隣の部屋へと入ろうとする。
「家康?どうした?」
秀吉はそんな家康に声をかける。
「…なおは意識が戻っただけだから、本当の混乱はこれからです。何もないと思いたいけど…念のため」
「それなら、おれも一緒にいよう」
そう言うと2人で部屋へと入っていく。
「…今は薬湯で寝ています。暫くは起きないと思う。起きた時…あの事を思い出せば…どう言う行動に出るか…」
部屋に入ると家康は自身の懸念を口にする。
「それは、最悪な事態も想定出来ると言うことか?」
「…考えたくはないですが」
家康はなおの部屋に刃物がない事は確認していた。
外に出なければ大事には至らないと、そこに神経を集中する事にした。
「折角意識が戻ったんだ…何があっても守るぞ」
「はい」
2人は隣の部屋へと意識を集中した。