第25章 乞う
第三者目線
「なお」
もう何度目かわからないくらい、信長は名を呼んでいた。
もうすぐ夜明け…なおの目覚める気配も、熱が下がることもない。
あのままずっとなおを抱き締め離さない信長を、皆何も言わずに見守っていた。
「…信長様。なおはもう…」
家康は残酷な宣告を信長に告げる。
穏やかになってきた息は、回復の兆しではない。
だが、それを言ってしまえば…本当になおが居なくなるようで、言えずにいた。
それを聞き信長以外の人々は、それぞれに涙を流す。
「なお」
信長は優しく抱きしめて名前を呼ぶ。
その時。
「…わ…すれ…て」
空気の漏れたような声がかすかに聞こえた。
その声に、言葉に、皆が息を飲む。
久しぶりに聞いた言葉は、とても残酷なものだった。
信長はなおを抱いたまま立ち上がると、外へと出る。
「なお。ぶらんこだ。」
信長が向かった先は、なおの好きなぶらんこだった。
なおを抱いたまま、そっとそれに腰掛けてゆっくりと揺らす。
「も…いい…」
小さく聴こえた声に、きつく抱き締める。
「なお…目を開けてくれ。俺を一人にしないでくれ…」
「…ごめ…な…い…」
「くっ…なお」
信長は、なおの身体がゆっくりと弛緩していくのを感じ、それを止める術のないこと。
そして、なおを失う恐怖に襲われる。
その刹那…キラキラと穏やかな光が、その闇に降りそそぐ。
「夜明けか…」
他人事のように信長は呟く。
すっかり力の抜けたなおの身体は、朝日を浴びキラキラと輝いて見えた。
「なお」
絶望だけが信長の心を支配していく。
もう一度、その唇にキスを落とそうとした時。
「ま…って…」
もう、息もなかったはずのなおの口から言葉が漏れ、手が上へと何かを掴むかの様に動く。
信長はその手をしっかりとつかまえ、その手に熱を伝えたくて胸元へと運ぶ。
なおの顔を見ると、瞼がゆるゆると開いていくのが見える。
開いたその瞳は、しっかりと光を宿し、信長を見つめていた。
もう、二度と離したくないと、想いを込めて信長は何度も呼んだ名を呼ぶ。
「なお!」