第25章 乞う
なお目線
遠くで私を呼ぶ声がする。
凄く懐かしい声。
凄く暖かい声。
凄く優しい声。
凄く悲しい声。
『もう…呼ばないで…』
そう思うのに声は日々増えていく。
「なお」
一番聞きたかった。
でも、
一番聞きたくなかった。
愛おしい人の声が聞こえる。
『呼ばないで…もう、逢えないから』
そう思いながらも…その声をもっと聞きたくなる。
『私を愛してくれた人
私が愛した人』
『呼んでほしい。
呼ばないでほしい。』
二つの気持ちが鬩ぎ合う。
涙がそっと溢れた。
『もういい…愛されたから、愛したから。
短い刻だったけど、幸せだったから。』
『わすれて…私のことはもう…わすれて』
身体が浮遊する感覚がして、暖かい温もりに包まれた後、少し冷たい空気が私の身体を包み込む。
暫くするとゆらゆら心地よい揺れが、私の身体と心を揺さぶる。
『もう…いいから…お願い…』
「なお…目を開けてくれ。俺を一人にしないでくれ…」
切ない声が降ってくる。
『…ごめんなさい。もう…本当におしまいにするの…ごめんなさい』
私は真っ黒な闇に自らの身を沈めようとした。
その刹那…キラキラと穏やかな光が、その闇に降りそそぐ。
【か…さ…かあ…さ…か…さま…】
聞いたことのない声がする。
『…だれ?』
【か…さま…おさま…な…てるよ】
『だれなの?』
【かあさ…も、と…さまも、ないて…よ】
『だれ?何を言ってるの?』
【ぼく、ま…て…から】
『何を言ってるの?』
【わ…ってる、ふた…をまって…。ま…てるからね】
『まって!!行かないで!』
何故だか失ってはいけない気がして、遠くなる声と光を、必死で掴もうと手を伸ばす。
その手は暖かい温もりに包まれた。
その温もりに誘われるように、私は目を開けてしまう。
「なお!」