第25章 乞う
第三者目線
家康と政宗は、部屋の中から聞こえる信長の声をただただ聞いていた。
信長のなおを乞う声は、二人の胸も締め付ける。
今までに聞いたことのない声に、なおへの想いが溢れている事が分かる。
二人はそれぞれ持ってきた昼餉と薬湯を襖の前に置くと、その場を離れた。
「…あんな声聞いたことないですね」
幼少期一時を共に過ごしたことのある家康でも、聞いたことのない声だった。
「それだけ、なおに本気って事だろう…あんな信長様も悪くない」
政宗はついと空を見上げる。
「…そうですね」
二人は暫し黙って、気分とは対極な青空を見つめていた。
…………………………………
「信長様失礼致します」
秋野は、静かな部屋に薬湯と昼餉を持ち入った。
なおを抱えた信長は、何の反応もせず秋野を迎え入れる。
「せめて薬湯だけでも…」
秋野は薬湯を信長に手渡す。
信長は受け取った薬湯を口に含むと、なおに優しくキスする様に薬湯を少しずつ流し込んでいく。
なおは咳き込むこともなく、少しずつ飲み込んでいった。
「信長様…汗が酷いのでなお様を着替えさせたいのですが」
薬湯を飲ませ終わるのを見て、秋野は再び声をかける。
「俺がする」
信長はなおをそっと褥に横たえると、帯を解いていく。
「くっ…」
襦袢をはだけると、その白い綺麗な身体のあちこちに痣や紅い印が薄っすらと残っているのが見えた。
信長は一瞬息を飲むが、目をそらすことなくなおの身体を拭き清めていく。
「暫しなおを頼む」
信長はなおの着替えを済ませると、自身も着替えるために秋野に任せ天主へと向かった。
まだ息は荒いものの、水分を取れたことで幾分赤みの消えた頬に、秋野はそっと手を添える。
「なお様…起きてください。秋野は、何があってもなお様のお側におりますから…」
いつもそう言うと笑ってくれたなおを思い出し、涙が溢れる。
「涙とは枯れぬものですね…」
小さく呟くとなおの髪をそっと撫でた。