第25章 乞う
第三者目線
沙耶は力の入ったその手をゆっくりと包み込み、指を広げるとなおの手にそっと重ねる。
「信長様…なおは、自分の非を責める事はあっても、貴方様を責める事はないでしょう。
その方が、信長様にとっては辛い事だと思います。
ですが…それでも、なおを受け入れてくれますか?」
沙耶は二人の手にそっと手を添える。
「私は外におります。何かあればお呼びください」
沙耶は手を離すと、立ち上がる。
「…すまない」
信長の小さな呟きに沙耶は微笑む。
沙耶はその一言に隠された多くの想いを、信長から受け取った。
「なおを、娘を頼みます」
そう告げると、沙耶はそっと後ろ手に襖を閉める。
『なお。後は貴女次第…』
沙耶は静かな廊下をゆっくりと歩き出した。
背後で襖の閉まる音がする。
静かな部屋になおの荒い息だけが聞こえる。
手を離すとそっとその頰に手を寄せる。
その頰を、髪を優しく撫でる。
「…最初から、貴様は寝てばかりだ」
落馬し、記憶を失い、矢傷を負い、そして…。
「半分は俺の責任だ。許せ、なお」
信長は褥からなおを起こし、横抱きにする。
「…こんなに痩せたのか」
自らの膝の上にそっと運ぶ。
その軽さに、手を通して伝わる身体の薄さに、愕然とする。
壊れ物を扱うかのように、でも想いの丈を込めて、なおを抱き締める。
抱き締めても、抱き締めても、足りない。
何かを埋めるように、なおにそっとキスをする。
乾いた唇を食むように、だが優しく何度もキスをする。
何をしても足りない気がして思い当たる。
「なお…俺を、俺を見てくれ…呼んでくれ…抱き締めてくれ…なお…なお」
気付いてしまえば、何をしても足りなくて…でも埋めたくて…なおを必死に抱き締める。
名を呼べば呼ぶほど胸が締め付けられ、苦しさに息が詰まりそうになる。
でも、名を呼ぶことも止めれず…気がつくとなおの髪や顔は、信長の涙で濡れていた。
そのまま、信長はなおを呼び、抱き締め続けた。