第25章 乞う
第三者目線
天主を出て歩き出すその足は、少しずつ少しずつ早くなっているのを、信長は自覚していた。
こんなになおを求めていたのだと…改めて思う。
『なお』
なおが安土に戻った時から…いや、見つかったと文が来た時から…ただただ逢いたかった。
逢ってこの手に抱き締めたかった。
だが…それは許されることではないと、己が傷つけたも同じ。
なおを抱き締める事など到底出来ないと…そう思っていた。
『なお…貴様は俺を許してくれるだろうか』
己が恨みを引き受けて、その身体に、心に傷をつけてしまったなお。
『俺に逢わなければ…俺が好きにならなければ…』
後悔だけが次々と押し寄せる事に気付き、ふっと自虐的な笑みを浮かべる。
『また、後悔など…』
信長はなおの部屋の前に立つ。
柄にもなく身体が微かに震えていた。
目を瞑り、手足にグッと力を入れ、震えを止める。
『俺は…なおを愛している。どんななおであろうと、受け入れる。そしてもう、2度と離しはしない…たとえ、なおに拒絶されても、許されなくても…。』
そう心の中で呟くと、覚悟を決めてなおの部屋へと通じる襖を開けた。
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「やっと来たか…うつけめ」
謙信は信長を見ずに呟いた。
「謙信様…貴方が言う資格はないと思いますよ」
沙耶は微笑みながらも、その眼は謙信を非難するように見つめる。
「ふんっ。俺は城下に行ってくる。佐助付き合え」
謙信はさも面白くないというように、外へと向かう。
「なおをお願いします」
佐助は信長に頭を下げると謙信の後を追った。
「信長様。お待ちしておりました」
沙耶は二人を見送ると、信長に目を向けて襖の外にいた信長を部屋へと招き入れる。
ハアハアと荒い息を吐き褥に横たわるなお。
顔にはまだ微かに痣が残り、赤みをさした頬。
唇は熱と水分を取れていない為、乾ききっていた。
信長は力が抜けるようになおの側で跪く。
『ふれたい…だが…』
信長は無意識に伸ばしかけた手を、膝元に戻すと硬く握り締める。
「信長様…大丈夫」
沙耶はその信長の手をそっと取る。