第25章 乞う
第三者目線
「お屋形様!なおが!!」
秀吉は天主への階段を駆け上がり、信長の元へ急いだ。
「なおが…感冒に、今夜、超えられなければ…」
「…超えられなければ…何だ」
「つっ…」
秀吉はその信長の問いに答えられなかった。いや、答えたくなかった。
言ってしまえばそれが、現実になりそうで…。
「秀吉」
信長はいつもの様に秀吉を呼んだ。
「はっ!」
「俺は…どうすればいい」
秀吉はその言葉に唖然とする。
信長が自分に漠然とした意見を求めるなど、今までになかった。
常に何歩先も見透し、いつも自信に満ち溢れ、迷う事などない信長が、今迷っている。
「失礼ながらご進言申し上げます。
お屋形様しかなおは救えません。
御母堂である沙耶様も、こちらで母代わりの秋野も、無論佐助も私達も…毎日声をかけておりましたが、何の変化もなかった」
秀吉は悔しさに一度唇を噛み締める。
「なおは…お屋形様を待っています。
起きてしまって…どうなることか俺には分かりません。
ただ、今居なくなれば…なおもお屋形様も救われません。
お屋形様!どうかどうかなおのそばに行ってやって下さい」
秀吉は信長の前で頭が床に付かんばかりに下げた。
「…俺が想うたばかりに、奴を傷つけた。それでも、待っていると言うか」
頭の上で響く声はいつもと違い、戸惑いと迷いに満ちている。
『それだけ、なおはお屋形様にとって大切だと言う事…』
秀吉はその想いの深さを、思いしった。
「待っております!なおはお屋形様が大切だからこそ、あの様に…。その傷、お屋形様にしか癒せませぬ」
秀吉は顔を上げ信長を見据えると、そう言い切った。
「ふっ…貴様に諭される時が来るとはな」
そう言い笑った顔には、いつもの表情が戻っていた。
「はっ!申し訳ございません」
もう一度頭を下げながら、秀吉はえもいわれぬ安心感を感じていた。
「なおの元に参る」
短く告げると、信長は天主を出ていった。
「俺が出来るのはここまでだ…なお戻ってこい」
秀吉は天主に差し込む日差しに目を細めながら、微かに笑った。