第24章 許されぬ想い
第三者目線
「なおの心は今、闇を彷徨っています」
静かな声が一編の詩を紡ぐように響いた。
「何度も手を伸ばしたけれど、それを掴む気力も生気もなおにはないのです。
佐助にも力を借りましたが…一瞬手に触れただけでした。
ですが、その一瞬なおの信長様に対する愛と後悔の念が流れてきた。
だから…もしなおを戻せるとしたら、信長様しか居ないと思っています」
沙耶はそう言ってなおの手をそっと握る。
「…なお様は、戻っても大丈夫なのでしょうか」
「それは…戻ってみないと分からない。ただ、今回はなおの周りには、たくさんの大事な人がいる。
その人達が守ってくれると、私は思っています」
秋野の問いに沙耶はそう答えた。
「好きでもない男を受け入れるのは…死ぬより苦しい、でも…つっふっ…」
沙耶は急に涙を零す。
謙信は分かっていたかのように、沙耶を抱き締める。
「沙耶…」
沙耶は謙信の呼びかけに意識を保とうとする。
「ごめんなさい。また、なおとシンクロしてしまったみたい…」
「しんくろ?」
「同化、同調する事です。なおの気持ちを強く受け取ってしまって…もう大丈夫」
沙耶は一つ深呼吸をする。
「でも…その苦しさより愛の方が強いと、私は身をもって分かっているし、なおにも分かると信じています。
私もそうだったから…」
沙耶はそう言って謙信を見つめた。
【軍神】と呼ばれる男は、秋野の知る限り、その瞳に捕らわれた人は死しか見ず、見た時には既に生き絶える。まさに神の如き強さだと…。聞いていた。
だが今、目の前にいるのは沙耶を慈しむ様な瞳で見つめ、優しささえ感じ取れる…謙信の姿だった。
「信長様も…なお様と恋仲になって、今の謙信様と同じ様な眼差しをなお様に向けておられました」
秋野は少し前の事なのに、懐かしい気持ちで思い返していた。
「本当に…本当にお似合いのお二人で…それなのに…こんな事に…」
秋野は二人の寄り添う姿を思い出すと、涙はまたとめどなく流れる。
「謙信様。なおを頼みます。私は、信長様と今一度お話をしてきます」
「…わかった」
「秋野。案内をお願いします」