第23章 二人の母
第三者目線
数日後、籠に揺られてなおは安土へと向かっていた。
顕如討伐の為、家康、政宗は先に安土へ立ち、目立たぬ様にと秋野と数名の護衛で向かっていた。
「秋野」
なおは籠の中から声をかける。
「なお様。大丈夫ですか?」
籠を止めると秋野は声をかける。
「少し疲れたの…どこかで休めるかしら」
「もう少ししたら、河原があります。そこまで我慢出来ますか?」
こくんと頷く顔が見え、秋野は周りにそう告げると、籠はまた動き出した。
その籠の行方を遠くから見ている人影があるとも知らずに…。
………………………………
「顕如様」
男は小さな小屋に佇む僧に、そう声をかける。
「…何だ」
低く落ち着いた声で顕如は返事を返す。
「織田の寵妃が予定通り河原へ向かいます」
にやりと口角を上げ男は顕如に告げた。
「前はしくじった。次は抜かるな。
次こそ、信長の首を皆の墓前に…」
顕如は遠くを見つめ呟く。
「行くぞ」
短く告げると錫杖を鳴らし、外へと歩を進めた。
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「なお様。お水を…」
秋野は籠の中にいるなおに水を渡す。
「ありがとう」
そう声をかけた時、周りからたくさんの男が現れる。
「つっ…」
秋野はなおを庇うように、籠の入り口に立ちはだかる。
「女。そこを退け」
籠を囲んだ男達の中から、顕如が姿を現わす。
「退きません。二度と貴方方になお様はお渡しする訳には行きません。二度とあの様な辱め…」
秋野は怯むことなく顕如を見据える。
「…お嬢さんが、受けた仕打ち…それだけは申し訳ないと思う。だが…織田の寵妃となった女子の宿命。その命、信長と引き換えにさせて頂く」
顕如は自らの意思ではない暴行に、苦々しい思いこそすれ、信長を殺る為には手段は選ばない…その想いを露わにする。
「やれ」
顕如が短く告げると、じりじりと男達が間合いを詰めていく。
「うっ…」
顕如の近くで、男が短く呻き前へと倒れこむ。
「…何だ」
その男の背に矢が刺さっているのを認めると、ゆっくりと矢の飛んできた方向へと目を向ける。
「こんなに綺麗に引っかかるとはな…」
そこには、政宗、そして矢をつがえた家康の姿があった。
「…くそっ、姫を捕らえろ」
顕如は籠へと目を向けた。