第23章 二人の母
第三者目線
三人は事の大きさに暫し動かないでいた。
「…御生母様も、こちらの世に…」
なおに母とは生き別れたと聞いていた秋野は、そう問いかける。
「はい。なおと同じく時を駆けてまいりました」
なおに声も面差しも似た女性に、それを信じない理由は何処にもなかった。
「謙信様…御三方をなおの元へ…」
沙耶がそう言いかけた時
「いやぁーーーーーー!」
城に響き渡る様な叫び声が聞こえた。
沙耶は弾かれた様に立ち上がると、駆けていく。
「…あの声は…」
秋野は胸を締め付けられる感覚に襲われる。
「なおが魘されているのだ。昼夜問わず…。起きていれば人形の様に意識がなく、寝ていればあの様に魘される」
謙信は続ける。
「意識は直ぐに戻った。だが、感情も言葉も何もかもあの日に忘れてきた様だ。今は水しか飲めていない…。誰の声にも反応せん。
覚悟して逢いにいけ。
佐助。三人を案内しろ」
そう言うと謙信は広間から出ていった。
「皆さん。こちらへ…」
佐助は三人をなおの元へと案内した。
………………………………
「沙耶様。皆さんをお連れしました」
「どうぞ…お入りください」
沙耶の声に三人はなおに充てがわれた部屋へと足を踏み入れる。
皆が一様に息を飲んだ。
そして…秋野はその場に崩れ落ちる。
顔の痣は薄っすら残る程度あり、それがわかるほど顔から血の気が引いていた。
開いている目に少しの光もなく、ただぼーっと空を眺めている。
そして…叫んだ時に出たであろう涙が、頬を伝っていた。
沙耶は秋野のそばに来ると、秋野をそっと抱き締めた。
秋野は堰が切れたかのように泣き叫ぶ…それを全て受け止めるかの様に、沙耶は寄り添い続けた。
政宗と家康は、冷静に出来るだけ冷静に状況を見ようと努める。
「佐助。厨を貸してもらえるか?案内を頼む」
政宗は佐助に告げると、佐助と共に出ていく。
「…俺も部屋に戻り薬を調合します。失礼…」
家康もその場で出来る事を考えながら、最初に案内された部屋へと戻っていった。
「秋野様…大丈夫ですか?」
沙耶はそっと声をかける。
「…申し訳ございません。御生母様にこの様な事…」
秋野は、そっと離れると頭を下げる。
「秋野様…」
沙耶は優しく声をかける。