第23章 二人の母
第三者目線
天主の欄干に座り空を眺める。
あの日からなおの行方は分からぬまま、時だけが過ぎていく。
「なお…」
名前を呼べはどこからか返事が返って来そうで、何度も何度も名を呼び続けていた。
「…離さぬと…守ると言うたのにな…」
自分の迂闊さに苛立ちを感じる。
「お屋形様!!」
返事をする前に襖が開き、なだれ込むように秀吉が入って来る。
どれ程駆けて来たのか、息も絶え絶えで信長に文を差し出す。
「上杉…」
それは敵将からの文だった。
パラリと文を開く。
「なお…」
そこに書かれていたのは、なおが生きていると言う事。
そして…男達に乱暴を受けたと言う事。
「くっ…守ると、守ると…」
手紙を床に叩きつける。
「皆を集めろ」
信長は秀吉にいつもの口調で告げる。
その目には、どうにもならない怒りと哀しみの色が揺れていた。
…………………………
上杉から報告を聞き…皆黙り込んでいた。
「申し訳ありません!」
三成は信長の御前に出ると、畳に頭を擦り付け土下座をする。
自分が気をつけていれば…防げた事態だと三成は後悔していた。
「…三成」
あの時の戦況を考えれば、三成が目を離したのは一瞬であろうと容易に想像はついた…。
敵がそれだけ狡猾だったと…。
だが、そんな言い訳をしたくない…そんな三成の気持ちも痛いほど分かっていた。
自分が居たとしても…皆一様に思っていた。
「…沙汰は追って伝える。まずは、なおが先だ」
重い空気を払拭する様に、信長は三成に席へ戻るよう促す。
「…俺は行けぬ。政宗、家康、そして秋野を連れて行け」
「ですが!なおはお屋形様を…」
「黙れ!」
信長は秀吉を一喝する。
「…なおを襲った敵がはっきりしない以上、なおに逢いに行けばまた奴を危険に晒すことになる…」
「そこは何とでも策を…」
「黙れというておる!この話は終いだ!明日には出立しろ」
信長はそう言うと、広間を後にする。
「俺は飯係、家康は御典医係ってことだな…」
政宗は家康の肩に手を置き、立ち上がる。
「…薬を調合して来ます」
家康も席を立つ。
「秋野に伝えてくる」
秀吉は重い気持ちを切り替える様に、声を出し秋野の元へと向かった。