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『イケメン戦国』〜生きる〜

第23章 二人の母


第三者目線

「なお…」
褥に横たわるなおの姿を沙耶は見つめていた。
薬によって眠らされてはいたが、傷からか少し熱が出ているようで、頬が上気し息も少し荒い。

そっと髪を撫でる。
「すっかり…お姉さんになったのね。可愛い、可愛い私の娘…」
涙がぽつりと落ちる。

こんな再会でなければ、なおは喜んでくれたのか…。
遠い日の笑顔を想いだし、その顔を見たいと思う。



だが、目が覚めたなおは…全ての感情も、言葉も、意識も失っていた。

…………………………………………

「なおの様子はどうだ」
あれから数日が経ち、なおの元を離れない沙耶を訪ね、謙信が部屋へとやってきた。

「…変わりありません」

運ばれてきた次の日の朝。なおは目覚めた。
だが、その目には光がなく、何処を見ているのかもわからない。

沙耶も佐助も必死に呼びかけるが、誰の声にも反応する事はなく、ただ虚ろに空を見つめる。

御典医に見せたが頭にも目にも、耳にも異常はなく。

『精神的なものでしょう』

そう告げられた。

口に水を含ませれば、飲む事は出来る。
だが、食べ物は受け付けず、元々細い身体は段々と痩せ細っていく。

「明日、安土の奴らが来る」
沙耶の横に座り、肩を抱くと髪をそっと撫でる。

「…そうですか…織田様は…」

「奴は来ない…否、来れないが正しいか…なおを拐かした相手が分からぬ内は…」

「戦国の世は…女も、男も…したい事をするのが…とても、むつ、かしぃ…わかって、います」

誰を想っても、切なくて…切なくて…涙が落ちる。

「沙耶…安土の奴らが来たら、暫し休め。お前が倒れたら、なおが起きた時哀しもう…」
謙信は沙耶を抱き締めると、額に唇をそっとあてる。

「寝ていると…魘されますから…。離れられません」
沙耶は顔を上げると、精一杯笑ってみせた。

「では、俺の膝を貸してやる。暫し休め…」
謙信は、沙耶が無理をしている事を承知で、その膝を貸した。
寝ろと言っても、離れる事はない。その目が語っていた。

「謙信様…ありがとう」
そう言うと、沙耶はそっと目を閉じる。
暫くすると穏やかな寝息が聞こえてきて、謙信はほっとする。

「皆が来るぞ…なお」
なおの髪を撫でた。




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