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『イケメン戦国』〜生きる〜

第22章 堕ちる


第三者目線

「謙信…織田へは知らせるのか?」
沙耶が部屋を出ると、信玄は問うた。

「言わずとも、分かるだろう。事を起こせば沙耶がもっと傷つく…。向こうがこちらにいると気づく前に、教える」

「それが良いだろう。謙信、戦好きのお前が火種を消すとはな…」
信玄はにやりと口の端を上げる。

「言ってるだろう。沙耶を…これ以上傷つけたくない。それに…女が運命に抗えずに死ぬのを見るのは…もうたくさんだ」
謙信の瞳が微かに揺れる。

「あぁ…そうだな」
信玄は多くを語らず…ただ、頷いた。

「佐助…貴様にも、もう用はない」
そばで話を聞いていた佐助に、謙信はそう声をかける。

「はい」
返事を返し部屋の外へと出ようとする。

「…良く殺さなかったな」
信玄がすれ違いざま声をかける。

「…殺したところで時間は戻りませんから。ならば、情報を取るために生かす…それだけです」
佐助はそう言うと一礼し、部屋を出た。

「…佐助」
いつ戻ったのか、幸村が出てきた佐助に声をかける。

「…その…大丈夫か?」

「すまない。少し駆けてくる」
佐助はそう言うと、漆黒の闇へと姿を消す。

「幸村。ほっといてやれ…」
部屋の中から声がかかる。

「でも…あいつ…」
襖を開け信玄に何かを伝えようとする。

「今はほっといてやれ…」
信玄の言葉に、それ以上何も言えなかった。

………………………………………

「なお…」
浜辺まで駆けてきた佐助は、砂浜に寝転がり空を見上げる。
新月の夜。星だけの心許ない光が佐助を照らす。

ひと摑み砂を手に取ると、そのまま拳を打ち付ける。

「俺が…もっと早く見つけられてれば…」
悔しさに噛んだ唇から血の味が口の中に広がる。

佐助は、さっき見た光景が頭を離れずにいた。
本当は男に刀を突き立てたかった。

「こんな時も…冷静で」
ふっと自虐的な笑みを浮かべる。
涙が一筋零れ落ち、砂浜を濡らす。

「…佐助」
小さく呼ぶ声がして、身体を起こす。

「…よく分かったな、幸村」
ゆっくりと頭を向け声をかける。

「…酒持ってきた。飲まねーか?」
横に座ると盃を渡す。

「ありがとう」
小さく返事を返し、ありがたく杯を受ける。

「…何も出来ねーけど…そばにいてやるよ」
飲みながら、小さく溢れた声にありがたさを感じながら、波の音を聞いていた。
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