第22章 堕ちる
第三者目線
「…遅かったか」
なおは春日山城へと連れていかれると、様々な処置を施され褥に寝かされていた。
佐助は、なおを女中に任せ、謙信や信玄に報告していた。
戦は一時休戦すると一方的に告げたが、同じ状況である織田側は何の反論もなく戦は終わった。
「謙信様…なおの元へ行かせてください」
沙耶は謙信に頭を下げ頼む。
謙信は、沙耶を抱き締める。
「…大丈夫か?」
「…つっ。うっ…けん、しんさま。なぜ…なぜ…」
沙耶は大粒の涙を流し、謙信に縋り付いた。
「沙耶…出来ることは何でもしてやれ。いるものがあれば何でも揃えてやる」
謙信は話には聞いていたが、今日初めてなおを見た。
顔にも痣があり、すこし腫れはあるものの、その姿に沙耶の姿を重ねた。
「沙耶の可愛い娘であるなら、沙耶の夫になった俺の娘も同然だ。
何でもしてやる」
謙信は泣き止む気配のない沙耶の髪を、背を、優しく撫でる。
「謙信様…ありがとうございます。
もう、大丈夫です」
沙耶はそう言って、弱々しく微笑む。
「なお姫は、本当に沙耶の娘だったんだな」
黙って話を聞いていた信玄が呟く。
「はい。あの日別れた娘です」
………………………………………
あの日、本能寺跡で沙耶だけがワームホールに飲み込まれた。
気づいた時には、戦場にいた。
それから、別の時間から飛んで来た佐助と共に、謙信を助け今に至る。
佐助との話の中で出て来た【なお】。
それはあの日、別れてしまった娘だった。
それから4年の間に、謙信と恋仲になり祝言を挙げ、なおとの再会を楽しみにしていた。
『この様な再会になるなんて…』
佐助から聞いたあれからのなおの生活。
沙耶が消えたことで、あの夫の欲望がなおに向いた。
『私だけが…幸せになってはいけないのに…』
なおに恋仲がいると分かった時には、佐助の想いは知っていても、やっとなおに幸せが来たと思ったのに、それはあっさりと壊された。
「謙信様…暫くなおのそばにいさせてください」
落ち着いて、沙耶は謙信に改めて頼んだ。
謙信は黙って頷いた。
『なお』
沙耶は立ち上がるとなおの元へと急いだ。