第22章 堕ちる
佐助目線
戦への準備が着々と進んでいる。
なおとはあれ以来逢えてない。
いや、逢えないの間違いだな。
そんなことを考えながら、我が上司【上杉 謙信】の元へ向かっていた。
「…佐助!おい!佐助!」
遠くから呼んでる声が聞こえ、意識を戻す。
「あぁ、幸村。どうしたんだ?」
「ったく、どうしたじゃねーよ。謙信様の部屋、過ぎてんぞ」
呆れた様に声をかけてくる幸村に礼を言う。
「あぁ、ありがとう」
「そんなに腑抜けるくらいなら、搔っ攫っときゃ良かったんだよ」
幸村の言葉に、内心苦笑いする。
「佐助。幸村。何をしてる。早く来い」
部屋の中から声がして、居住まいを正し部屋へと入る。
ーキィィン
「…来るとは思ってましたが」
俺は謙信様の一振りを弾くと、間合いを開ける。
「ふん。つまらん」
謙信様は呟くと部屋へと戻っていく。
「全く…毎回毎回良くやるな…」
幸村は呆れたように呟く。
「で…何だ」
謙信様は不機嫌さをあらわにしたまま俺に問う。
「なお様が、織田の寵妃になったと…部下より報告がありました」
「……」
無言のまま謙信様の刀の切っ先が、俺の喉元に突き立てられている。
「謙信様…また、佐助にその様な事を…おやめくださいませ」
隣で静観していた女性ー沙耶様ーが、謙信様の袖口を掴んでいる。
「佐助が…あの時連れてきていれば、この様な事にならぬものを」
「謙信様。きっとあの時にはもう…なおは織田様に惹かれていたはず…連れてくることは叶わなかったでしょう」
沙耶様が静かに微笑む。
「沙耶…佐助。沙耶に免じて許してやる」
謙信様は刀を鞘に戻し、沙耶様の隣に座るとその肩を抱き寄せる。
「して、此度の戦の準備は…」
「順調に進んでいます。ですが…」
俺は新たに仕入れた情報が気に掛かっていた。
「本能寺で織田を襲撃した犯人の目星がつき、更に今動きがあります。此度の戦に絡んで来るかも知れません」
「誰だ?」
「本願寺元僧侶 顕如」
「ほぉ。さすが佐助だな。俺も今その情報掴んだところだ」
背後から声がして振り向くと、信玄様がその姿を現した。
「まぁ、どこの誰が出てこようと、邪魔者は斬り捨てるのみ…」
その眼に仄暗い光を宿した謙信様は、刀に手をかけながら呟いた。