第21章 幸せな刻
なお目線
「…明日よりもっと前へと打って出る。暫くここへは戻れぬかもしれぬ…ここで大人しく待っていろ」
「…わかりました」
嫌だと言いたい気持ちをぐっと堪える。
『ついていきたい…』
無理な事は分かってる…でも堪えられない涙が溢れてしまった。
「…なお。言っても良いぞ…そこまで堪える必要はない」
信長様のその言葉に、何とか堪えていた涙が堰を切ったように流れてくる。
「…ごめ、んなさい。一緒に行きたい…置いて、行かないで…」
私は素直な気持ちを信長様にぶつけ、そのまま暫く泣いてしまう。
それを暖かい身体でしっかりと受け止めてくれる。
「落ち着いたか」
少しずつ涙は止まって気持ちが落ち着き、さっきまでの不安は和らいでいた。
「信長様…ここで待ってます。必ず帰って来てくださいね」
私は心からそう告げることが出来た。
「なお必ず貴様の元へ帰る。ここで俺を待っててくれ」
「約束ですね」
「あぁ、約束だ。この戦が終わったらもう一つの約束も果たそう…その時は暫く貴様をこの腕の中から出さん。
覚悟しておけよ」
いつもの自信と、力強さに満ちた顔をしっかりと見上げると、微笑みを返してくれる。
「さぁ、今日も疲れてるはずだ。休め。寝るまでそばにいてやる」
信長様は私を褥へと誘い、そっと私の手を握ってくれる。
「信長様は…?」
「俺の事は気にするな。いつものことだ…さぁ、休め」
そう言うと空いた手で、私の髪を撫でてくれる。
「信長様…色々と我儘言ってごめんなさい。受けとめて貰えて嬉しかった」
ふっと信長様の笑う声がする。
「愛おしい者のの我儘一つや二つ…大した事ではない。
笑っていてくれれば…それで良い。その笑顔が見れるなら、どんな我儘でも受け止めてやる」
「信長様…大好き」
「あぁ、俺も大好きだ」
二人で目を見合わせて微笑みあう。
優しいキスを交わして、私は微睡みに落ちていった。
そんな幸せな時間は終わりを告げる。
今…私はまた闇に囚われる。
『やっぱり…幸せは長くは続かない…もう、貴方の元へは戻れない…約束も守れない…ごめんなさい…信長様…』